僕の手元には、まるで無いし――。
浦上 いいえ、その事は、いずれ又、何か新らしく書いていただく時にでも清算していただきますから、気になさらないで――。
三好 そいつは是非書かせていただきたいけど、でもいつになるか当ての無い事では、御宅の方も整理が附かないでお困りでしょうし[#「しょうし」は底本では「しようし」]――。
浦上 いや、それは……。(かまわず靴を穿きにかかる)いずれにしても、元々私の方でお頼みして書いて貰ったんですから[#「貰ったんですから」は底本では「貰つたんですから」]、仮りに、これきりになりましても、それは私の方の責任で、あなたに御迷惑をかける筋はありませんから――。
三好 え? それ、どう言うんです?
浦上 まあ、まあ良いじゃ[#「良いじゃ」は底本では「良いじや」]ありませんか。あんまり、そんな事気になさらないで、どうか――。
三好 (顔の色を変えている)しかし、そんな、そいつはくない[#「そいつはくない」はママ]。あなたの言う事は――。
[#ここから2字下げ]
(そこへ、やはり下手庭口から、ワンピースにサンダル下駄を突っかけた登美が妙な表情をして、背後を気にしいしい戻って来る。その後から、ボサボサの頭髪にヨレヨレの袷を素肌に着流し、サナダ紐で帯をして煎餅のようにチビた下駄を引きずった若い男(佐田)が入って来る。消耗性の病気にやられている者特有の身体つきと顔の色で歩く足附きなども少しフラフラしている。入って来て立停り、誰にと言う事も無くヒョコリと頭を下げる。……此方の三人は一斉に二人に目をとられ、三好も言葉をとぎらせてしまう)
[#ここで字下げ終わり]
登美 ただ今あ。直ぐ持って来るんですって。(ドンドン上にあがる)
三好 おそいなあ。
登美 だって[#「だって」は底本では「だつて」]……(佐田を頤で示して)……向うで会っちゃって、いいって言うのに、ついていらっしゃるんですもの。
三好 佐田君、どうしたの?
佐田 はあ。……
三好 まあ、あがったら、いいだろう。(佐田黙って縁側の端の方に腰をかける)
浦上 では、これで失礼します。
轟 僕もその辺まで御一緒に[#「御一緒に」は底本では「御一所に」]――。(庭に降りる)
三好 チョット待って下さい! それじゃ僕が困るんだ。僕に迷惑はかけないと言うのは、どう言う事なんです?
浦上 ですから、既にお払いし
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