つてゐる)……ああ、妻恋では、私が赤も泣いて居るぢやろな。
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(間)――(崖の端に立つた街燈の裸かの電球にポカツと灯が入る。山間の常で急に夕闇が立ちこめるのである)
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トヨ ……ああ電気、ついた。
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(間)――(紙芝居は硝子越しに乳を飲ませてゐるトヨを覗いてゐる。青い顔になり、総身ガタガタふるえはじめる)(遠くで、眠さうな自動車のラツパ)
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トヨ あれ、もうええのかや? はあ、飲んでしまうたら、直ぐ寝よる。これでよい。さあ、あんたさん、どうしたの、あんたさん。
紙芝 (顫える掌で、むやみと顔中をこすりながら)あつしでござんす。信州の旅人時次郎でござんす。一旦出て行く事は出て行つたが耳に付く子供の泣声……ハハハ、ま、かう言つた調子だ。ハハハ(と言ひながら入つて来る)これはありがたう。(幼児を受取る)
トヨ 寒いのかねえ、えらく顫えて?
紙芝 いいえ、何でもない。
トヨ んでも、えらく顫えてさ。
紙芝 何でもない。ハハ(と笑ひかけるが、喰いしばつた歯が笑はせないのである)……ウーム。
トヨ さうれ。
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