免なさい。休ませて下さい。
トヨ あい、どうぞ……。
(紙芝居掛ける。紙芝居はボンヤリ何か考へ込んでゐる。――間)
トヨ あんたさん、赤ちやんば下しておやりんなればよいに。……そいでは苦しそうぢや。
紙芝 へえ。……ぢや、まあ。(帯を解き、子を背からおろす。無言でそれに手を貸してやるトヨ)
トヨ 幾月かな? 四月位かね?
紙芝 へえ、五月になりますよ。……(子を膝に置いて再び掛ける。トヨも前の処に掛ける)
トヨ まあよく眠つて。……どうしたお子かいな?(問ふともなく、一人言の様に)
紙芝 ……(前を向いたまま)女房に死なれちやつて。
トヨ 難儀ぢやろうなあ。
紙芝 (自然な気持の流れを自分でせき止める様に)……ハハハハ。なんですねえ、かうして方々を見て来ると、村方でも近来これで、楽ぢや無さそうですね。聞いてこそ居たが、まさかこんなに酷からうたあ思はなかつた。
トヨ お乳にお困りんなんだろね?
紙芝 方々で米作がひでえし。もつとも、いくら良くても、値が下がれば、同じ事か。
トヨ お乳はどうなさるかいね?
紙芝 へ? ええ、シンコ溶かして煮てやります。どうもね、一々面倒で……。
トヨ お砂
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