て、クミを思ひ出して走つて引返し、クミの手を取つて引立てる)さ、来う! さ!
六平 (同様に寝こけてゐる六郎を引ずり起して)さ、こら、六! シヤンとせえ!(手を取つて走り出す。既にその時には笠太郎はクミの手を引いて左手の橋を渡りかけてゐる)
女車掌 松島屋へ行くんだら、通りを行くより、直ぐそこんキビ畑左い折れるが近道だよう。
六平 さ、こら!(と負けじと走りかけるが、寝呆けてゐる六郎の身体が足もつれになつて前へ行けず、ドツと転ぶ。その間に六郎が小旗を振り振り夢中で左手の方へ走り出す「はあ、万才! 万才!」と叫びながら。それを追掛けて腕を掴んで引戻して)こん野郎、そつちで無えわい!(六郎を殆んど引ずる様にして左手へ橋を渡つて走り去る)
女車掌 あーんだえ、ありや! 豚の尻つぽさ、火が付きあしめえし!
仇六 豚だか馬だか知んねえが、尻つぽさ火が付いたは、ホンマらしいて。アハハハハ! どりや、帰るべいや。ドツコイシヨ。
女車掌 乗らんかね、あんたあ?(男に)
紙芝 乗らん。私あ此処で――。
仇六 乗せてくれるんか? ホンマか、べつぴん?
女車掌 あれま、あんたユンベ篠の祭に出てゐた紙芝居の人
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