になつて子ば育てるか……。
紙芝 ……ウム。
トヨ ダルマは死ぬより辛いと云ふ。直きに病気になるげな。(と次第に独言の様になる)二人で生きて居れんなれば、どつちか一人は死なんならんのぢや。好きで産んだ子でも無いに、生れて見れば可愛うて、自分の身はたとえ死んでも子供の手足は伸してやりたい。これはどう云ふ訳でがせうね? 神様がわし等ばこらしめなさるのぢやらうか? 罰ばお当てんなるのかね? ……かうして居ても乳が張つて、わし等は苦しいのです。わし等に子供がいとしいのは、やつぱり罰が当るのぢやらう。
紙芝 ……罰をねえ。……子供さんのお父つあんは?
トヨ……(ツト立つて相手を見詰める。父と云はれて不意に湧いた反感がその顔に認められる。ヂツと見詰めてゐたが、相手に皮肉の意味が全然無いのを見て、我れに返つて)……ハハハ、あんた様は村の人では無かつたけ。村の人ならば、私にそんな事ば、真面目になつて問ひはせんもの。ハハ。……食いぶちだけは仕送るから、末は必ず嫁にするからと、無理に私をだまくらかして……。それに、それに、私あ……。
紙芝……?
トヨ (声をしぼつて)何でもええから、自分を可愛がつてくれる人が欲しかつたんぢや。寂しかつたんぢや。そこへやさしい事言はれて、ツイほだされてしまうた。私と云ふ者は小さい時から、人に可愛がつて貰うた事がなかつたのぢや。寂しかつた。ああ。……ズツと前可愛がつてくれた人が一人だけは有つた。学校帰りにはアケビば取つてくれては、私の口に入れてくれた。その人はどんな気でゐたか知らぬ、私はその人のお嫁になる積りで居た。その人は東京で偉い出世ばしてゐるげな。……さうでなくても、かうなれば、もう駄目ぢや。もう駄目ぢや。はあ、もう駄目ぢや。……(フツツリ黙る。紙芝居何か言はうとするが言へず、これも黙つてゐる)
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(余り離れてゐない太田屋で、酒を喰ひ酔つて喚いたり唄つたりしてゐる高井村のオヤヂの声が聞えて来る)
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トヨ ……(又我れに返つて、フト気を変へる。少しきまりも悪いのである)ああ、私ああにをベラベラ喋くつたかいね? ハハハ、初めて会うた、あんた様つかまえて。ハハ。んだが、あんたさんであればこそ聞いて下さる。村の人あ皆私とは口も利いてくれんもんね。ヤツト、ヤツトの事で胸ん中の事スツカリ人に話して、セイセイして元気が
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