やポスタアを見るようにツマラなく、タイクツであるのも、そのためではないかと思います。また、中野重治さんなどが、なかなか小説が書けないのも、実はそのためではないでしょうかね。なぜなら、この中野さんという男は一種すぐれた芸術的神経を持った男のように私には見える。だから、現在みたいな政治およびイデオロギイとの関係に自分を置いとくと、芸術家中野は苦しくてたまらんのじゃないだろうかと思われるのです。そして、それは、今言ったような原因からだと思われます。それからまた、宮本百合子さんの小説がみんな、かなり上手な「タカラさがし」みたいな組立てになっていて、そのタカラさがしの手やタカラの在り場所を知らない物や気づかない間は相当におもしろいが、それらを知ってしまうと、おもしろく無くなってしまうのも、そのためのような気がします。タカラさがしの手やタカラの在り場所と私が言うのは、もちろん、唯物弁証法的創作方法や社会主義的リアリズムのことです。それから、その他のたいがいの左翼作家や左翼詩人や左翼評論家の作品が、唯単に一つの公式をいろいろにちがった人間や事件や事物に適用してみたに過ぎないと言ったふうの安易さと単調さとタイクツさを持っているのもそのせいのようですし、また、若い勤労者が自然発生的に非常にすぐれた作品を生んでも、それがいったん左翼的な文学グループに呑みこまれて意識的に左翼的な作品を書きはじめるとトタンに生長が停止してしまう事実もそれのようですし、また、比較的若い世代の共産党員の作家などが、「政治活動や経済闘争をやる時は共産党で、作家活動をするときはナンデモナイ――つまり非共産党でやる」と思ったり言ったり実行したりしているのも、そのせいのように私には思われるのです。
A わかりました。現象としては、あなたの言うような事が或る程度まで、たしかに在ることを私も認めます。しかしそれの論理づけについては、にわかにあなたにサンセイできない。とにかく、あなたの気質とそれから物の考え方は、実に根深いところの左翼に対する反感に出発しているようですねえ。
B そうでしょうか。しかし、一体全体、私が左翼に反感を抱かなければならぬどんな必然性や必要や利益が私に有るのでしょうか? それらは私に無いです。むしろ好感を持つ必要性や必要や利益の方が多いのではないかと自分では思っています。いずれにしろ、反感を抱いたから、抱いているから、こんなふうに見るのでは無いという事だけは私は確信をもって言えるんです。むしろ逆だと自分では思っています。即ち、私はたいへん微力ながら三十年近く私なりの芸術を生み出す仕事を勉強して来ました。その結果、こう考えざるを得なくなったのです。つまり私の芸術への努力が、結果として、政治およびイデオロギイと芸術および芸術家の関係について以上のように考えざるを得なくさせたのですよ。だから、私としては、自己の気質や性格などを別にすれば、芸術自体の本質の中に現実的政治およびイデオロギイとは差し当り反撥したり離反したりする必然性があるのだと思わざるを得ないわけです。そして前にも言ったように、実はそれ故にこそ、芸術は政治やイデオロギイを批判したり矯正したり鼓舞したりするエネルギイを自己の内に保持することが出来るのだ。だからこそ、芸術は短い期間の政治にとってはマイナスとして作用することがあっても、長い期間にわたってのもっと大きな意味での政治(=人間が集団をなして生活して行くためのメトーデの全部と言うことと同義に理解される政治)に対しては他のものがなし得ないような独特の貴重な奉仕をすることが出来るのだと思うのです。
A しかし政治は常に生ける今日のものですよ。そして将来の政治も今日の政治から切断されて、それと無縁のものとしては在り得ません。それが在り得るように空想して、それに対して奉仕するのだと言う美辞麗句に酔うことによって、現に今あなたがその中に生きている現実政治の可能な進歩を引きもどそうとあなたはしている。すくなくとも、現実政治をサボって、うっちゃりっぱなしにして置こうとしている。それは一言に言って保守的反動的ですよ。
B そら、出た!
A なんですか?
B いえ、今にあなたがそう言うだろうと思っていたのです。そうです。もしそれがそうならば、私は保守反動でしょう。しかし私はそうは思いませんね。むしろ芸術が政治的であるためのホントのありかたは、私のような考え方からしか出て来ません。だから現実政治の可能な進歩を引きもどそうとしているのでもサボッてうっちゃりっぱなしにして置こうとしているのでも無いと思います。もちろん、その時々の一党や一派にとっては、そうなるかも知れませんがね。そして、あなたは共産党員だから、あなたにとっては、そういう事になるでしょう。しかし私は共産党員ではあ
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