す。赤岩さんがキリスト信仰を持ったまま入党しても、党員としてチャンと働いて行けば遠からずキリスト信仰を捨てることになる筈ですから、チットもさしつかえ無いのです。
B 同じ事ではありませんか。それに、赤岩さんはマルクシズムも相当べんきょうした人のようです。「税金が高過ぎるから」という理由だけで入党する人とは、おのずからちがいます。彼自身がそれを明言しています。あんまりキチガイじみた事はなさらない方がよいだろうと思います。
A キチガイじみてる? 何がですか?
B だってそうではありませんか。一方において天理教を信仰していながら同時に一方においてジコウ教を信仰することは、普通の人には出来ないでしょう[#「出来ないでしょう」は底本では「出来ないでしよう」]。
A それはタトエがまちがっている。赤岩さんの場合はマルクシズムとキリスト教です。そしてマルクシズムは宗教では無くて科学です。
B マルクシズムは科学ではありません。一般に、それを見る人の立場の相異によって認識や評価がちがって来るような思想は、科学ではありません。マルクシズムが、他の社会思想にくらべていくらかよけいに科学「的」であるとは思いますが、科学ではありません。それは一個の観念体系です。
A いずれにしろ宗教では無いですよ。
B そうです、それ自体宗教ではありません。しかし、それが一個の観念体系であるという点で(なぜなら、すべての宗教はそれぞれ一つづつの観念体系ですから)、宗教に似ています。しかも、人がマルクシズムを是認し信じて、それを実践しはじめた瞬間から、その人とマルクシズムの関係は、信者と宗教との関係と全く同じことになります。したがって、生きた人間が、それを実践の綱領または規準として把持しはじめた瞬間から、その人にとってマルクシズムは宗教と同じものになるし、また、そうならなければ、実践的な力は生まれて来ません。だからこの場合、赤岩さんにとっては信仰する宗教が二つ出来たと見てさしつかえ無いのです。そして、それは普通の人には出来にくい事です。だからキチガイじみていると言いました。
A キチガイとまちがいか。まちがいだな、あなたの考えは。しかし今はその点にふれないで置きます。赤岩さんのことはそれ位にして、森田草平さんや出隆さんや内田厳さんや、その他いろんな文化人がたくさん共産党に入りつつある現象をあなたはどう思います?
B どうって、どうとも思いません。入りたかったら入ったらいいじゃありませんか。どっちせ、たいした事では無いですよ。あなたはそんな事をシツコク聞いて全体どうしょうと言うんです?
A あなたも文化人の一人だから、同じ文化人がこんなにハッキリした動きを示していることに無関心ではないと思うからです。それにやっぱりあなたは正直のところ共産主義のことを無視することは出来ないでしょう? それにさんせいするしないに関せずです? そうでしょう?
B それは、たしかに、そうです。世界はどうなるんだろうと考えたり、日本の社会はどうなるだろう、どうしたらいいんだろうと思ったりする時には、共産主義というものを全く無視することはできませんし、してはいけません。しかし、今、共産主義者であるあなたを相手にして語っているからこそ、この事ばかり話しているんですけれど、ふだんは実はあなたが思っていられるほど、この事を考えたり語ったりはしていないですよ。
A よござんすとも。そこで今言った人たちの事をどう思います? 聞かせて下さい。
B みんな善い人のようですね。善すぎますよ。そして、タヨリになりません。プワプワ、フラフラして、チョットした泣き落しにかけられると、たちまち「善意」のヨダレをたらして、ひっくり返ってチンチンモガをはじめる。善い人なことはわかります。しかし、一体に、風船玉みたいな善人よりも、シッカリした悪党を私は好みますし、また、その方がホントは世間の役にも立つんじゃありませんかねえ。「善」は往々にして持つべきものを持っていない状態ですからね。森田草平さんの事はよく知りません。出隆さんは、あれで「哲学者」なんですか? こないだ何かの雑誌で「富士」のなんとかを書いていられたから読んだけど、私はその中から哲学者よりも神経衰弱者を読みとりました。内田厳さんは、たしか画家ですね。それなら、ツジツマの合わないような文章など書き散らさないで、絵を描いたらどんなものだろうと思うな。と言っても、共産党に入ったが最後、出隆さんには哲学はやれなくなりますね。そして唯物弁証法の拙劣な臨床例を無数に、それこそ輪廻のように展開しはじめるでしょう。内田厳さんにはホントの絵は描けなくなりますね。そしてむやみと大きなタブロウなどに岩を様式化したりして、ポスタアを描くでしょう。そのほかに、どんな人がおりますか? ドンド
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