り虚脱したり、既成のものから毒されたりした若い世代もいるし、年は若くても精神において老衰した者もいる。私の言うのはホントの若い世代だ。物事をあるがままの姿で正視する明るいスナオな目を持ち、否定すべきものに向ってハッキリとノオと言い放ち、言い放った瞬間からそのものへ背を向けるだけの勇気を持ち、困難と孤独に耐えて自分のものを生み出し育てて行くエネルギイと忍耐力に満ちた若々しい魂のことだ。これはなにも演劇=新劇のことに限らない。各種の仕事や文化の部面に、数は僅かかもしれないが、そのような若々しい魂が存在していないとは、私は信じられない。新劇の中や周囲にも、そのような若い世代が、まるでいないとは、私は信じられない。そしてそのような人々が良い新劇をはじめてくれることを、確信している。実は私が実際の演劇から現在のように孤絶しながらノンキな顔をして戯曲を書いておられる程に楽観的なのは、そのためである。
 以下は、そのような若い世代にあててする私の忠告の二、三である。諸君の頭で自由によく考えて、もし私の言うことの中に多少でも、もっともだと思えることがあったら、その通りにした方がよい。
 まず第一に、既成の新劇をなるべく見たもうな。それは、おもしろく無い上に、君の上にロクなことは起きない。君の感受性は毒される。君の知性は衰弱する。君のイノチは萎縮する。君の習慣は植民地化する。新劇を見るだけのヒマと金があったら、友だちと野球でもするか、恋人と遠足でもすることだ。どうしてもシバイが見たければ、他人から低級だとケイベツされてもよいからアチャラカ劇でもなんでも良い、君がホントに正直に見たいものを見たまえ。なぜなら、アチャラカ劇は君のためには大してためにはならぬかも知れぬが、すくなくとも君を毒したり衰弱させたりはしない。
 第二に、しかしどうしても新劇を見たければ、チャンと金を払って切符を買って見たまえ。その金は親や兄弟や友だちからもらった金や、闇取引をしてもうけた金でなく、君が労務して得た金でなければならない。百円を得るために君は多分一日汗とホコリにまみれなければなるまい。その百円で見た新劇がつまらなかった場合には、君は腹が立つ筈だ。そして、それにコリて、もう二度とは新劇を見に行かぬ筈だ。百円で見た新劇がそれに相当しておもしろかった場合には、君は満足してまた何度でも行くだろう。それでよい。そして君は多分、二度三度とは見に行かなくなるにちがいない。それでよい。
 第三に、「しかし自分たちは演劇を勉強しているのだから、その参考のためにも、それから先輩たちの経験から滋養分を摂取するためにも、やっぱり見なければいけないのではないか」と言ったような考えをスッパリと捨てたまえ。それは「自分は女について知りたいからパンパンを買わなければいけない」と言ったような考えと同じで。パンパンを買わなくても女のことは知ることが出来る。演劇の勉強は猿が物マネをするのとは、ちがう。この生きた現実の人生が劇のお手本だ。学んでよいのは人生だけである。それに、これらの「先輩たち」は、よい気になってゴマカしているけれど、演劇芸術家としてのウンチクや経験など大したものは持っていない。たいがいお寒いものか、デタラメか、コケオドカシである。彼らの内幕や経歴をかなりよく知っている私が言うから、信用してくれてよろしい。
 第四に、既成の新劇人たちの指導による演劇学校や研究所の生徒や研究生になるのは、よしたまえ。既になってしまった諸君は、明日からそこへ行くのをやめた方がよい。なぜなら、そのような指導者たちの学識や内容は、たいへん貧弱なものであり、かつ、彼らが諸君を集めて講義したりしているのは、演劇に対する愛や若い世代に対する責任感のためと言うよりも、「演劇師匠」としての世渡りの手段や自己の勢力を保持するための方法や自己の属するイデオロギイや党のために貯水池を作るための段取りであったりする場合の方が多いから。やめるのは早ければ早いほど良い。そして、勉強したければ、諸君たち自身が横につながって仲間を作り、共同研究をやりたまえ。それで足りない所は、諸君の総意が指すところに従って、信頼し尊敬することの出来る先輩だけを招いて話を聞きたまえ。
 第五に、諸君が新劇をはじめるとしても、当分の間、公演活動をやることを急ぎたもうな。前にも書いたように、このデコボコのインフレが或る程度までおさまらない限り、演劇公演は合理的な形では成り立たない。成り立たないものを、無理にやろうとすると、諸君は不当に大きなギセイを払わなければならなくなる。だから急がぬがよい。そして主として研究活動と、会員制による試演会に集中するがよい。そしてその間、なるべく諸君は他に仕事を持ち、それでもって最低生活を堅固に支えながら、やった方がよい。
 第
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