れた唯一つの路であります。願わくば、われわれの志をあわれみ、挺身従軍の許可が与えられますよう、御高配下さるよう、この機会に切に切にお願申します。それも、出来ますならば、唯単に文化人として従軍するのではなく、銃を担い剣を取って一兵として従軍したいのが私どもの本望であります。かくて、私どもは私どもの志のクニツミタマに添い奉り、撃ちてし止まん日の鬼と化さんことを、ここに誓います! 以上、御願いのため、連署血判をもって――」
薄田 ほう、血判したのか?
三芳 はあ、いえ、これは下書きでして、大野先生に一応聞いていただき、これでよいとなりましたら清書しました上で――はあ。
薄田 痛いぞ、指を切るのは。
三芳 いや、それは――(心外なことを言われて、抗弁しようとするがやめて、大野を見る)
大野 なかなか良いじゃないか。(言いながら卓の上の小皿から肴の一片を取ってくめ八に食わせる)
三芳 はあ、実は、少し単刀直入に過ぎて、言葉が不穏当な個所も有るようにも思いましたが、とにかく正直に私どもの気持を訴えてですね、理解してさえいただければ、それでよいと思ったものですから。誠心誠意、ただそのことを――
大野 いいだろう。ねえ薄田さん。(薄田のコップにビールをつぐ)
薄田 そう。わしらの方として別に異存はないが――しかしまあ、そこまでなにしなくても、いいんじゃないかねえ。こないだ、隊の方で新聞や雑誌の連中を引っぱったのは、チョットほかのことでなあ、君たちとは別だ。それほど気にしなくともよかろう。それに、いま言ったその、理解さえしていただければというんだったら、なにもそう――
三芳 いえ、そ、そ、それは、そ、そんな意味ではないのです! これでもし許していただければ、一兵卒として従軍します、する気がなくて、誰がこんな願書を出したり――ちがいます、そ、そんな新聞や雑誌の連中が引っぱられたから、それにおびえて、それで、ゴマをすって私たちがこんなことを――心にもないことをしていると――そんな、そんなふうに取られては、立つ瀬がありません。し、し、心外です、そ、そんな――
薄田 ハハ、まあいいよ。
三芳 よくありません。そんなふうに私どもの誠意が――
薄田 誠意はわかっとる。だが君たちまで第一線に引っぱり出さなきゃならんほど、まだ、わが方の状況はなっとらん。安心したまい、ハッハ。
三芳 そのことではない
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