すぐに使えるフィルムを持っているのと持っていないのとじゃ、話がだいぶちがってくるからねえ。ホントから言やあ、大きな会社へ持って行くか、または、少しメンドウだけど、材料店に切り売りすりゃ、三十円以下ということはないんだ。なにしろ終戦まぎわの製品でパリパリしたやつだそうでね。それを十五円で運ばせようというのは、これでかげながら、君たちに協力したいという気持があればこそなんだ。
三芳 ヘヘ、いや、けっこうですよ、だから協力してくださいよ、七円にして。いいじゃないですかどうせ、そんな品物も、つまり、言ってみりゃ、そのドサクサまぎれの――
大野 そんな君、そんな、あやしい品物じゃないんだ。なんなら現場へ案内したっていい。帳簿にもチャンとのっている品物なんだ。ただ持主が処分を急いでいるしね、チョットわけがあって業者の方へは廻したくないというので困っているんでね、見るに見かねて私が口をきいてあげているだけなんだ。
三芳 でしょう? だから、それでいいじゃないですか。私の方としても、いかがわしい物は引受けられませんからねえ。
大野 じゃ、ま、伝えといてみよう。しかしまず、それじゃ話にはなるまいと思うなあ。
三芳 だって大野さん、これが二千や三千のフイルムじゃないんですよ。三万とまとまりゃ、どこへ廻すにしても、チョット目立ちますよ。ね、フィート七円なら、決しておかしな値じゃないと思うんだ。それで手を打ちましょう。あなただって、先日から二度も足をはこんでいるんだから、なんじゃないですか、ここいらでモノにしなくちゃ―― 
大野 私あホンの使い走りをしているまでだよ。誤解してくれちゃ困る。まあ、じゃ、この話はこれぐらいにして、なんだ、ハハ、私も実は、こんな話を持ちこまれて迷惑しとるんだ。――ハハハ。……(キョロキョロそのへんを見て、ツヤ子に目をつける)……やあツヤ君……どうしたねその後? まだ映画には出ないのかね?
ツヤ ……もう私、映画はやめたの。
大野 どうして? 方々でニューフェイス、ニューフェイスで騒いでいるようじゃないかね? チャンスだと思うがなあ、君なんぞ――?
三芳 この人は、特攻隊に出ていた恋人が、それっきり戻ってこないので、目下、悲観中でしてね。
大野 へえ、そうかねえ……そいで、その大将、突込んだのかねえ?
ツヤ フフ。……(相手にならぬ)
三芳 大野さん、じゃ八円まで
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