かん! ころんでも唯は起きまいとしている。とがめているんじゃない、やるならやるで、もっと、かしこくやるんだなあ。そんなダラシのない頭じゃ、赤の再建なんぞ、おぼつかないぞ! ワッハハハ。
三芳 ちがいます! そ、そ、中佐殿! ちがいます! そんなふうに、言われる事は、私――このように、誠心誠意、なにしているのを、信じていただけない――残念です! この、この胸を――
大野 (薄田に)いや、この大将など、連中の中では感心なんですよ。とにかく態度がまじめだから。
薄田 そうかね、ハハ、まあまあ、いいさ、こうふんしたもうな、ハハ、ただわしは、どっちが本音だよと言ってるまでだよ。その、フィルムも手に入り、従軍願いも聞きとどけられたら、君の方で困りゃせんかと思ってね――
三芳 (涙をボロボロこぼして)以外です! フィルムの方は、私が、かりに従軍しましても、あとに残った連中が使って、――もちろん、中佐殿、私が従軍が許していただけたらただちに銃を取って、なんです――この、この決意だけは――どうか信じて下さい。ほんとに、私はこの胸の奥を叩き割って、見ていただいて――ヒッ!
[#ここから2字下げ]
(くやし泣きに泣いて、椅子に坐っておられなくなって、床の上にすべり落ち、頭をさげ両手をつく。――その姿を、ツヤ子が片隅から冷然と眺めている)
[#ここで字下げ終わり]
薄田 ハハ、まあいい、君たちは、落ちついて活動でも作っておる。それが一番無事だ。
三芳 (泣き狂いのような調子で)耐えられません! もう、われわれは、こんな、アンカンとして眺めてはいられません。そうではありませんか、アッツ島以来、南方諸島は失陥につぐ失陥、海軍は全滅、琉球もあぶなくなっている! このまま押し進んで行けば、どうなるんです? え? 私どもは、今や銃後にアンカンとして一日の安きを盗んでいられません! わかって下さい! しかも、半年前まで、軍部で言っていた本土空襲に対する、わが空の守りのかんぺきさなど、今となっては、まるきり空手形ではありませんか! 本土はおろか、この東京――この帝国の首都――向うの飛行機など唯一機といえども絶対に入れないと言われていた東京が、もう既に二度、しかも悠々とやられています! 今にして、われわれがわが方の戦力の信ずべからざる事に目ざめて――
薄田 (三芳の言葉の中途から怒り出したのが、この時がま
前へ 次へ
全33ページ中14ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング