Aもう一本。
タン もうそれでいいでしょう。
学生 またはじまった。僕は風景を描くんだぜ。オークルがなくて、どうして描けるんだい?
タン さあ、それは私にはわかりませんな。とにかく、もう絵具は有りません。
学生 小父さんちは絵具屋だろう?
タン そりゃ、そうでさ。看板にもちャンと書いてあります、絵具販売業、タンギイ。
学生 だから業じゃないか。業なら客に売らなくちゃなるまい?
タン 売りますよ、売るぶんにはいくらでも。
学生 だからオークル一本。
タン 聞きますが、売ると言うのは、品物をお客に渡して、お客から金をもらうことでしょうな? あなたは、この前の分も、まだ払ってくださらない。
学生 だから、こんだおやじから金が送って来たら、今日の分もいっしょに、くださろうと言ってるじゃないか。信用しないかね僕の言うのを?
タン 信用はしますけどね……困りますねえ、とにかく、家では家内があんた、やかましくって。
学生 ははん、クサンチッペか――(店内を見まわす)今日は留守かね?
タン 奥に居ますけどね、とにかく私が後でえらく叱られますから。
学生 クサンチッペとはよく言ったな。ゴーガンが初め言い
前へ
次へ
全190ページ中75ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング