sく。それを見送っているモーヴとヴィンセント)
ワイセ どうしたんだよ?(しかしすぐにまた、素描の方に注意を惹かれてしまう)
ヴィン (急にモーヴに振り向いて)仮りにそうだとしても、悪いのはシィヌじゃないんだ。その証拠に、仕事さえ有れば、あれは洗濯や掃除に雇われてチャンと稼いで来ているんです。悪いのは、そんな仕事では食べて行けないほどしか賃金をくれないからなんだ。いや、そんな仕事さえも、時々なくなってしまう。あれは身体が弱いんです。その病身の、なんにも持たない、教育もない女が、一人っきりで、しかも五人の子供と母親を抱えて、やって行かなくちゃならないんですよ! 人間なら――いや、神さまだって――だのにアントン、あなたはあれを、はずかしめることが出来るのか?
モーヴ 私は事実を言っているまでだ。事実を言われて、はずかしめられたと思う者は、まず自分ではずかしいことをするのをやめたらよい。第一、君がこうして、絵の勉強はそっちのけにして、あんな女に同情したり、同棲したりしているのは愚劣だよ。そいつは、センチメンタルな人道主義遊戯だ。
ヴィン 絵の勉強はやっていますよ! いや、僕にとっては、これが
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