オているじゃないか。
シィヌ ケイさんに失恋しちゃって、あんたガッカリしてたのよ。そこへ私が現われたのよ。そいで、あたしが、あんまり憐れな有様なもんだから、あんたの気持にピッタリしたんだわ。つまり、憐れんだのよ私を。
ヴィン ちがう、ちがう。そんなことはないよ。僕は君なぞよりズットズットみじめな人間だ。神さまからも人々からも見はなされた人間だ。君を憐れんだり、どうして出来るものか。
シィヌ 憐れむと言うのが悪ければ、みじめな者同士が寄り合ったんだわ。たとえて言うと、捨てられた犬同士が寄って来て身体を暖ため合ってるの。
ヴィン それでもいいじゃないか、だから。人間には、ただ男と女として愛するとか惚れるとか言うより、もっと深い意味で愛すると言うこともあるんだ。……僕はミレエの描いた畑の絵を見ると、そこの地面に抱きつきたくなる。そこを歩いている貧乏な百姓女の足にキスしたくなる、……(シィヌの足を見て、いきなりかがみ込んで足の甲にキスする)こんなふうに。こんなふうに。
シィヌ いやあ、くすぐったいよ! フフ! あたしは百姓女じゃないわよ。
ヴィン なんでもいいんだ、僕は愛している。
シィヌ 無
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