言っても、居間も寝室も兼ねた粗末な裏町の一室で、そのガランとしたさまも、広さも、前のワスムの小屋に似ている。しかも、前に老婆のひざまずいていた場所にモデル女シィヌが裸体で低い台に腰かけているし、ヴィンセントが腰かけていた場所には、同じヴィンセントがイーゼルに立てかけた全紙の木炭紙に向ってシィヌを写生しているので、瞬間、前場の光景とダブる。
ただヴィンセントの絵を描く態度が、前のように弱々しい半ば無意識のものではなく、噛みつくように激しい集中的な描き方。木炭紙が破れるように強く速いタッチ。
シィヌは、前の所だけをチョット着物で蔽うて、ダラリとして掛けている。まだかなり美しいが、どこかくずれた顔や身体。長い葉巻を横ぐわえにしている。
……ヴィンセントの木炭のゴリゴリいう音。
女の葉巻の先から煙が、一本になってスーッと立ち昇っている。
[#ここで字下げ終わり]

[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
シィヌ ……(低く口の中でフンフンと鼻歌。「アヴィニョンの橋の上で」。やがて歌詞も歌う。葉巻をくわえているので歌詞はハッキリしない)
[#ここから9字下げ]
Sur le pont d'
前へ 次へ
全190ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング