、虚脱したような姿。眼は空虚にローソクの灯を見ている。……やがて、老婆に眼を移す。老婆は耳が聞えず、眼は閉じているため、ヴィンセントが祈りを続けていると思いこみ、口の中でボソボソと主の祈りを繰返して余念がない。……それをボンヤリ見守っているヴィンセント。右手が無意識に動いて、テーブルのパンへ行き、撫でる。しかしパンを撫でているとは彼自身は知らない。……次にその手が上着のポケットへ行く。それがポケットから出て膝の上に来た時には、ちびたコンテが握られている。そのコンテをボンヤリ見ている。やがて、パンの包まれていた紙の上に、ほとんど無意識にコンテが行き、線が一本引かれる。それを見ているヴィンセント。……ソッと老婆の方を見る。老婆はひざまずいて身じろぎもしない。ヴィンセントのコンテが紙の上で動く。やがて、ハッキリと老婆を見、紙のシワを伸ばして、老婆の姿のりんかくの線を二本三本五本引く。……その、うつけたような、しびれたような、そして次第に熱中の中に入りこんで行きかけた青白い顔)――(暗くなる)
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    2 ハアグの画室

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すぐに明るくなる。――
画室と
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