リとなって自分の足元を見ている……)
ヨング ……(しばらく黙っていてから)それで、どうしました、ヴァン・ゴッホ君? その、支配人との話しは――?
ヴィン ……(顔をあげてヨングを見るが、すぐに、喰いつくような鋭い目をして自分を見つめているデニスの方に視線を引かれ、次にヴェルネを見上げて、弱々しいしゃがれた声で)……駄目だった。……朝から今まで、なにしたが、……会社も苦しい。まるで余力がない。そう言う――バリンゲルさんは、悪い人ではない。会計の帳簿まで見せてくれた。……ボリナーヂュの出炭量は世界中で一番貧弱だと言う。だのに、それを売るのには、ほかと同じ値段で売らなくてはならん。だから、利益は非常に少なくて、株主への配当は僅か三パーセントだし、会社はいつでも破産の瀬戸ぎわに立っている。……坑夫の賃金を一サンチームでも上げれば、会社は確実につぶれる。そう言うんだ。嘘を言っているのではないことが私にわかる。……それでは、せめて労働時間を短くしてくれ、一日十三時間も入坑していたのでは、坑夫はみんな死んでしまう、と言うと……それは、事実上の賃金値上げと同じことになるから出来ない。……では、坑内の
前へ 次へ
全190ページ中22ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング