た、ボウも鳴ってたし、誰かが怒鳴ったり、歌ったりよ(立ちあがってイライラと床の上を歩きだす)……それがよ、こうしてみんな声も出さなくなって、犬も吠えねえんだ。山中がシーンとなってしまって、もう十日だ。
ヴェルネ デニスよ、まあまあ落ちつけ。
デニス ……(ガラリと窓をあける。窓の向うに、黒く静まり返った坑口近くの風景の一部が見える)見ろよ! 人っ子一人歩いてねえ。あんまり静かで、俺あ耳ん中がワンワン、ワンワン言って、気が変になりそうだ。
アンリ そりゃお前、ストライキだから、しかたがねえよ。
デニス だからよ、俺の言うのは、そのストライキがよ、こんなザマで、この先どうなるんだと言ってるんだよ。会社じゃ、俺たちが黙って言うことを聞かないようなら、四坑とも閉鎖すると言ってるし、今となっちゃ、ワスム中の百軒あまりの家で十サンチームと金の有るとこは一軒もねえんだよ。食えるものと言えば、木いちごや草の根はおろか、猫や鼠やトカゲからひきがえるまで取って食っているありさまだ。
アンリ だってお前、そりゃ、そうなって来たんだから仕方がねえよ。ストライキと言やあ、まあ戦さみてえなもんだ。つまりが戦さなん
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