をくわえている。窓の方を見て)そろそろ五時半と言うとこかな。
アンリ だって、まだこんなに明るいぞ。
ヴェルネ 天気が良いと、こうだ。これであと二十分として、おてんとさんが、ボタ山の向うに入ると、いきなりバタッと真暗になるやつだ。
アンリ でも、五時の交替のボウは、まだ鳴らねえぜ?
ヴェルネ 二、三日前から、ワイスの奴あ、ボウ鳴らすの、やめてるよ。
アンリ あ、そうだっけ。畜生め、ボウぐらい鳴らしてくれたって罰は当るめえ。
ヴェルネ だけどよ、アンリ、ボウは交替の合図だあ。こうなって、お前、交替もヘッタクレもねえんだから。
アンリ そらそうだけどよ、景気が悪くって、そうでなくても気がめいりそうだからよ。
ヴェルネ 炭車も昇降機も停っちゃってるしな、ボウだけのために釜に火を入れるの無駄だってバリンゲルさんが言ったそうだ。
アンリ ……ちくしょうめ。
デニス たまらねえ! 俺あ、たまらねえ! 俺あ――(これは先程から片隅の床の上にじかに置かれた藁のベッドのはじに腰をおろして、両手で頭をかかえこんでいた男。低い、すすり泣くような声で言いだす)十日前まで、炭車や昇降機はガラガラ、ガラガラ唸って
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