ねえ! そうじゃねえんです! ここの先生は、つまり、わしらのことを心配して下すってです、今日なども、わざわざ、会社の支配人の所へ掛け合いに行ってくださって、この――(このヴェルネの言葉の間に、先程ハンナとアンリが出て行った時に開け放されたままになっている扉の、暗いガクブチの中に、足音もさせないで戻って来たヴィンセント・ヴァン・ゴッホが、しょんぼりと立つ。皆それに気づかぬ)
ヨング やっぱり、それでは、あんた方の先頭に立ってナニしているんだな?
ヴェルネ いいえ、そんな、そんなことあねえです。ただ、わしらのことを、この――
デニス わしらのことを会社に売りつけようとなすっているんでさあ。へへ。
ヨング (相手の言うことは聞かない)ふむ。……キリストと同じ……

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その間もヴィンセントは、絶望し疲れ切った姿でボンヤリ立っている。帽子はかむらず、ヨレヨレのナッパ服に、ブリキを巻いて修繕したサボ。ひどく痩せた青い顔。……ヨングの声で、眼の色が動いて、ユックリそちらを見るがそこに居るのが誰であるかよくわからない。
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