オない。しないけど時々僕は、すまなくなることがある。
タン テオさんて方は、まったく良い弟さんだ。兄さんのことをあんだけ気にかけている弟と言うのは見たことがありませんね。
ヴィン 僕にはもったいない弟だ。だのに、僕は一生あれの厄介になり、あれを苦しめなけりゃならない。だって、僕の絵はまだ一枚も売れない。
タン なに、そのうちに売れますよ。これだけ立派な絵を描いていらっしゃるんだ。そりゃ、みんな、すぐれた絵かきさんは、なかなか認められません。現にピッサロさんやマネエさんなどもう五十過ぎです。それが、やっと売れはじめたのはこの二、三年のこってす。世間と言うものはそんなもんでさ。目の前で天才が飢えて死んでも知らん顔をしているくせに、ズーッと後になるとヤイヤイもてはやす。世間と言うものは、そういう馬鹿でさ、私なんぞ、なんにも深いことはわかりゃしませんけど、絵が好きですからね、とにかく良い絵と悪い絵くらいはわかりますからね、まあとにかく、すぐれた絵かきさんで、世間の馬鹿が認めないために貧乏している皆さんのために、ホンの少しでも役に立てばと思って、こうやって絵具屋をやっていますが――
ヴィン 小父
前へ 次へ
全190ページ中120ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング