知しねえ! こねえだの爆発の時だって、ここの先生が身の皮あ、はぐようにしてよ、三日三晩いっすいもせず、食うものも食わねえで、まっ黒になってケガにんの看病したなあ、デニス、お前だって見ているんだ!
デニス しかし、そいつは宣教師の務めとしてしているまでじゃねえか。ああしてさえ居りゃ、伝道教会からチャンチャンと月給が送って来るんだからな。なんの心配もありゃしねえ。それにとどのつまりが、お坊さんだ。説教は出来るだろうが、会社に行って何が言えるんだな? 今どきお前、坊主の説教ぐれえで、はいさようでございますかと、こっちの言い分を聞いてくれるような支配人かよ、あのバリンゲルの畜生が?
ヴェルネ そこは何ともわからねえぞデニス。バリンゲルの旦那あ、そんなに話のわからねえ人でもねえ。俺あ知ってる。まあま、おっつけここの先生も戻って来るよ。万事はそれからのことだ。
デニス とっつあんは気が永過ぎるよ。年い取ってすこしボケた。
アンリ やいやいやい、デニス、お前、まだワッパのくせに、とっつあんに向って口がすこし過ぎやしねえか? お前の考えるぐれいのこと、ヴェルネが考えてねえと思うか? 俺たちが、じかにお百度を踏んで掛け合いに行っても会社じゃ、こっちの言い分はまるきり聞いてはくれねえ。この四、五日は労務の連中も俺たちに会ってもくれなくなった。それでこの先生が見るに見かねて支配人に会って話してやろうと出かけてくだすったんだ。物には順序と言うものがあらあ。それをよ、そんなにイライラと気を立ててよ、ヒステリイ犬が狂いまわるようなことをしては、何もかもぶちこわしだと思うから、腹の虫おさえて我慢してるだ。俺にしたってそうだ。見ろこの腕を。(ダラリとさがっている左袖をゆすって見せる)炭車のウインチに持ってかれて、こうだ。俺あ、この腕にかけて言ってるんだぞ。てめえ一人で何もかもひっちょったようなこと言うのは、なまいきだぞ。
デニス 何がなまいきだ! へっ、俺だって、ここの(と自分の痩せた胸を叩いて)ヨロケにかけて言ってんだ! 毎朝毎朝吐き出す血ヘドにかけて言ってんだ! これ、誰のせいだ? え、何のせいだ? それを――
ヴェルネ まあまあ、まあまあ、気い立てるな二人とも! わかってるよお前たちの心持あ。なあデニス、俺あ、まだお前が生れねえ前からボリナーヂュで炭い掘ってるんだ。ハハ、百も知ってるよ、そったらこと。まあ、いいて。今となっちゃ、ワスム中の人間、誰彼なしに腹んなかあ同じだ。なあ、このバコウのおっ母あにしたって――(と、片隅の椅子に、三本の大ローソクと紙包みを大事そうに握って黙々としてかけている老婆をあごでさして)よそ見にゃケロリとして坐っているが、亭主のバコウはヨロケで取られ、上の娘はチフスで取られ、今度はまた一人息子のシモンが爆発で死んで、死骸もあがらねえ。そいでも、こうして生きてるんだ。つれえのは自分一人のことじゃねえぞ。みんな、泣くにも泣けねえ心持をこらえながら、やってるんだ。(老婆は石つんぼだが、自分のことを言われていることに気づき、三人を見まわしている)
デニス だからよ、だから、そんなお前、そんなことが、俺たちのせいかよ? こんなひでえ目に逢うのが俺たちの――
ヴェルネ 俺たちのせいじゃねえよ。だから、そこんとこをどうやって行けば俺たち坑夫が生きて働いて行けるか、そいつをしっかりやってって見ようと言うのが俺たちの仕事だ。下手にジタバタすると、出来ることも出来そこなって、俺たちみんな死に絶えるぞ。
アンリ まったくだ。ハッパ、ぶっぱなすなあ、いつでも出来る。大事なこたあ、炭の筋に当るようにハッパをチャンと仕掛けることだ。なあ、そうだろ、バコウのおっ母あ?
老婆 あん?
アンリ (老婆の耳のそばへ)このなあ、ボリナーヂュ中の人間の命がよ、俺たちの肩にかかっているからなあ、めったなことでかんしゃくを起こしちゃいけねえよなあ! そうだろ?
老婆 そうだそうだ。ここの先生におたの申そうと思ってよ。町の教会までは、おらの足じゃ行けねえからなあ。
ヴェルネ フフ、フフ。
老婆 ここの先生、間もなく帰って来るかね?
アンリ まるでこりゃ、いけねえや。
老婆 (二人が笑うので、自分も歯の一本もない口をあけてニコニコして)……やっとまあ、こうして、あちこちからローソク貸してもらってなあ。へへ、今日はお前、死んだシモンの名付け日のお聖人さまの日だからな、お祈りだけでもあげてもらおうと思ってね。
デニス だって、バコウの小母さん、シモンは爆発で死んだんだぜ、つまり会社のために殺されたようなもんだよ? それを会社じゃ死体を掘り出そうともしねえ、その上、炭坑は閉鎖して生き残っている俺たちまで取り殺そうとしているんだ。お祈りをあげたからって、どうなると言うんだい?
老婆
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