A怒り出すんですよ。徹夜して議論を聞かされるのが二晩も続いたりすると、私はもうフラフラで、頭が変になりそうなんです。それに兄には、物を整頓しようなどと言う気はまるでないのです。兄と一緒に暮すようになってから私の室は、まるでおもちゃ箱をひっくり返したようにメチャメチャになってしまいました。おまけに、絵具をあちこちに置き放す、それを踏みつぶす、着物にまでベタベタくっつくと言うテイタラクで、もうどうしてよいかわかりません[#「わかりません」は底本では「わかまりせん」]。……私はグーピル商会に使われている、平凡な勤め人です。まあ、キチンと生活して、身なりなどもキチンとしていなければならない立場にあります。兄と一緒に住んでいたんでは、到底それが出来ないのです。ホトホト私はもう疲れ果ててしまいました。どうしたらいいでしょうかね、ベルナールさん?
エミ ……(困って)僕にはよくわかりません。以前から兄さんは、今のような調子だったんですか?
テオ そうです。以前から何かに熱中すると、当分カーッとなってしまって、もうまるで夜も寝ないようになるし、ほかの事を忘れてしまうんです。それが続いて、今度はどうにかすると、ガクッと黙りこくってしまって、恐ろしく陰鬱になるんです。するうちに、またカーッとなる。その変り方が激しいんです。何かの病気じゃないかと言った人もあります。……そういう兄の性質を知らないわけではなかったんですけど、極く小さい時以来私とヴィンセントは一緒に暮したことがほとんどないものですから、実はこんなだとは知らなかったんですよ。それに、今度パリに来てからの様子は、これまでのそんな調子とはまたちがっているような気がするんです。私は心配でたまらないんです。ねえ、タンギイさん、どうしたらいいだろう私は?
タン そうですなあ。兄さんと言う人も、あなたも、善い人ですがねえ。
テオ そうなんだ。私はとにかく、兄が善い人間なことは間違いありません。兄としては悪気が有ってしていることではないんです、兄にはああしか出来ないのです。兄自身としては、一所懸命に人のことを考えたり人に親切にしたいと思ってそうしていることが、実際は人を苦しめ人に迷惑をかけているということが兄にはわからないんです。そういう人間です。エゴイスト――まるで、微塵も悪意を持たないエゴイスト――そう言った、わかってもらえるかどうか知
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