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ルノウ いんごうなことを言ったようで、すみませんねえ。いいんですかあ? そんじゃまあ……助かりますよ、こいで。
ヴィン テオ、すまない。……
テオ なに、もう少し早くなにすればよかったんだが、なにしろ、僕もこれできまっただけの月給で、目下ギリギリ一杯なもんだから。間もなく、店の支配人にしてくれるらしいから、そうなれば、もう少しなんとか出来るから。
ルノウ 支配人ですって? 結構ですねえ。どんな会社におつとめで?
テオ グービル商会と言って、ギャラリイを開いて、この、絵を商っています。
ルノウ ギャ、ギャラ――へえ、絵をね? どうれ[#「どうれ」に傍点]で、兄さんが絵かきになろうと言うんですね。兄さんがセッセと描いたのを弟さんがセッセと売るんだね? へえ! よっぽど、この、絵なんてえものは、利廻りの良いもんですかねえ?
テオ (苦笑)いえ、それほど良いわけでもない――
[#ここから4字下げ]
そこへ、ドアにガタンと音がして、外から、身体ごとぶっつけてドアを開けてフラフラと入って来るシィヌ。片手にヂンの瓶をさげている。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
ヴィン ああ、シイヌ、お前――(相手が足元もきまらぬ程に酔っているのを見てドッキリ言葉を切る)
シィヌ ――Sur le pont d'Avignon……
ルノウ あら帰って来たね。どこへ行っていたんだよ?
シィヌ え?(薄暗い室に、外から、いきなり入って来たのと酔眼のため、眼を据えて、すかして見て)あらあ、ルノウの小母さん、こんな所に来てたの? なあんだあ!
ルノウ どうしたんだよ?
シィヌ ハハ、あんたん所へ行ったのよ私。留守だろ? だから、しかたがないから、キューペルの酒場に寄って、これ――(ヂンの瓶を示して)借りてね、フウ!
ルノウ キューペルで、よく貸してくれたねえ?
シィヌ 小母さんちを訪ねて行って、またなにして稼ぐ気だって、あたいが言ったら、そんならまあ貸してやろうって――へへ!
ルノウ またなにするって、お前――(とヴィンセントの方を気にしてジロジロ見る。ヴィンセントは真青になって言葉もなくシィヌを見つめている)――なんせ、いい御きげんだね?
シィヌ 御きげんだわよう。ラララ、ラ、Sur le pont d'Avignon, L'on y passe, L'o
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