たらこと。まあ、いいて。今となっちゃ、ワスム中の人間、誰彼なしに腹んなかあ同じだ。なあ、このバコウのおっ母あにしたって――(と、片隅の椅子に、三本の大ローソクと紙包みを大事そうに握って黙々としてかけている老婆をあごでさして)よそ見にゃケロリとして坐っているが、亭主のバコウはヨロケで取られ、上の娘はチフスで取られ、今度はまた一人息子のシモンが爆発で死んで、死骸もあがらねえ。そいでも、こうして生きてるんだ。つれえのは自分一人のことじゃねえぞ。みんな、泣くにも泣けねえ心持をこらえながら、やってるんだ。(老婆は石つんぼだが、自分のことを言われていることに気づき、三人を見まわしている)
デニス だからよ、だから、そんなお前、そんなことが、俺たちのせいかよ? こんなひでえ目に逢うのが俺たちの――
ヴェルネ 俺たちのせいじゃねえよ。だから、そこんとこをどうやって行けば俺たち坑夫が生きて働いて行けるか、そいつをしっかりやってって見ようと言うのが俺たちの仕事だ。下手にジタバタすると、出来ることも出来そこなって、俺たちみんな死に絶えるぞ。
アンリ まったくだ。ハッパ、ぶっぱなすなあ、いつでも出来る。大事なこたあ、炭の筋に当るようにハッパをチャンと仕掛けることだ。なあ、そうだろ、バコウのおっ母あ?
老婆 あん?
アンリ (老婆の耳のそばへ)このなあ、ボリナーヂュ中の人間の命がよ、俺たちの肩にかかっているからなあ、めったなことでかんしゃくを起こしちゃいけねえよなあ! そうだろ?
老婆 そうだそうだ。ここの先生におたの申そうと思ってよ。町の教会までは、おらの足じゃ行けねえからなあ。
ヴェルネ フフ、フフ。
老婆 ここの先生、間もなく帰って来るかね?
アンリ まるでこりゃ、いけねえや。
老婆 (二人が笑うので、自分も歯の一本もない口をあけてニコニコして)……やっとまあ、こうして、あちこちからローソク貸してもらってなあ。へへ、今日はお前、死んだシモンの名付け日のお聖人さまの日だからな、お祈りだけでもあげてもらおうと思ってね。
デニス だって、バコウの小母さん、シモンは爆発で死んだんだぜ、つまり会社のために殺されたようなもんだよ? それを会社じゃ死体を掘り出そうともしねえ、その上、炭坑は閉鎖して生き残っている俺たちまで取り殺そうとしているんだ。お祈りをあげたからって、どうなると言うんだい?
老婆
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