瘁B
ワイセ 帆立貝なども売ってるかね?
ルノウ 売りますね、注文さえ有れば。へへ。
ワイセ じゃ、こんだ注文に行くかな。(言いながら、おかみのふくらんだ尻をキュッとこすって、すまして出て行く)
ルノウ 助平爺いめ。……ねえ、さ、ゴッホさん! どうしてくれるんですかね? 今日は、あたしあ、払いをいただかなきゃ、テコでも帰りやしませんよ。
ヴィン ……(戸のわきにボンヤリ立っていたのが、ユックリこちらへ歩いて来ながら)すまない。ホントにすまない。なんとかすぐに――
ルノウ ただすまないで、すむと思うんですか? あたしんちだって、ああしてあんた、露店に毛の生えたような店なんですからね、こんなにカケを溜められたんじゃ立ち行かないんですからね。こちらのクリスチイネが頼むからまあ――クリスチイネとはズット以前からナジミですからね、食べるものがないと言って泣き付かれりゃ、うっちゃっても置けないしね、それに、近頃じゃ、あの子のおふくろまで時々やって来ちゃ、バタなんぞ持って行って、あんたんとこの帳面につけといてくれと言うんですよ。しかしそれも無理もないさ、クリスチイネの子供を四人もおっつけられて養ってやってんだからね。とにかく、そんなこんな全部、ゴッホさん、あんたの責任なんだから、ただそうやって、すまないすまないで、三文にもならない絵ばかり描いていちゃ駄目じゃありませんかね? こんなザマだと、また、クリスチイネは、あたしん所へ金を借りに来ますよ?
ヴィン ルノウのおかみさん、どうか頼むから、その、あれを引っぱり出すのは、よしてくれ。
ルノウ 引っぱり出す? あたしが? 冗談言ってくれちゃ困るよう! なあによ――これまでだって、いつでもあんた、あの子の方から是非にと言って頼まれてあたしゃ、めんどう見て来たんだよ。こいでもあたしゃ、女郎屋のやり手婆あじゃないんだから。シィヌの身になって気の毒と思やあこそ――だって、おふくろや子供たちにも、仕送りはしなきゃならない、自分は年中医者にかかっている、で、あんたはその調子、すると女の身で金え稼がなきゃならないとなると、こいで、元手はウヌが身体だけだあね。ひひ。そうじゃありませんかね? そうさせたくなかったら、あんたが奮発して、何か仕事を見つけて稼ぐんだね。
ヴィン 僕にやれるような仕事があるだろうか?
ルノウ そりゃね、今こんな不景気だから、割
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