`vignon,
L'on y passe, L'on y danse,
Sur le pont d'Avignon,
L'on y danse tous en rond.
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(歌に合せて片足をバタバタやりはじめる)
[#ここで字下げ終わり]
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ヴィン ……(それまで夢中になって描いていたのが、モデルの足が動くのでイライラしはじめ、しまいに我慢できなくなって)シィヌ! おいシィヌ!(シィヌは耳に入れないで歌いつづける)クリスチイネ! 頼むから、歌うのはやめてくれ。
シィヌ だってえ、――退屈だもん。
ヴィン 今、大事な所なんだ。
シィヌ 歌ぐらい歌ったって、いいじゃないか。声まで描くわけじゃないだろうに。
ヴィン そりゃそうだけど――なんでもいいから、じっとしていてくれ。
シィヌ あたしもこれまで、絵かきさんのモデルもずいぶんやって来たけど、あんたのように気むずかしいことを言う人は、まあなかったわね。ビタースは飲むなって言うし。
ヴィン それはまた別の――いや、だのに、お前はヂンを飲むから――
シィヌ ピーテルセンの先生がビタースがない時にはヂンだって良いって言ったんだもの、少しなら。薬なのよ私には。あたいは胃腸が弱いから――
ヴィン だから、ビタースなら良いけど――
シィヌ じゃ、お金ちょうだいよ。ビタースは、ヂンの倍も高いんですからね。
ヴィン 今一フランもないことはお前だって知っているじゃないか。あと二、三日すればテオが送ってくれるから、そしたら――
シィヌ 一にもテオ、二にもテオだ。飽き飽きしちゃった。なんでもいいから、テオさんもあんたの弟なんだから、それにお金持なんだから、毎月の金を一度に五十フランずつ三度に送るなんてケチケチしてないで、一度に百五十フラン送ってくれたらどうなの?
ヴィン 弟は精一杯のことをしている。グービル商会につとめて貰っている月給は三百五十フランぐらいなもんだ。その半分近くを僕に送ってくれているんだよ。そんなふうに言うもんじゃない。
シィヌ へん、そいで、じゃ、私たちの暮しはどうなるの? もうパンもないのよ。ヘルマンのミルクもないのよ。ここの室代も、もう三月も溜っているのよ。この上、私が入院するようなことにでもなると――
ヴィン コルの伯父が、良いスケッチが描けたら五枚でも
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