た、ボウも鳴ってたし、誰かが怒鳴ったり、歌ったりよ(立ちあがってイライラと床の上を歩きだす)……それがよ、こうしてみんな声も出さなくなって、犬も吠えねえんだ。山中がシーンとなってしまって、もう十日だ。
ヴェルネ デニスよ、まあまあ落ちつけ。
デニス ……(ガラリと窓をあける。窓の向うに、黒く静まり返った坑口近くの風景の一部が見える)見ろよ! 人っ子一人歩いてねえ。あんまり静かで、俺あ耳ん中がワンワン、ワンワン言って、気が変になりそうだ。
アンリ そりゃお前、ストライキだから、しかたがねえよ。
デニス だからよ、俺の言うのは、そのストライキがよ、こんなザマで、この先どうなるんだと言ってるんだよ。会社じゃ、俺たちが黙って言うことを聞かないようなら、四坑とも閉鎖すると言ってるし、今となっちゃ、ワスム中の百軒あまりの家で十サンチームと金の有るとこは一軒もねえんだよ。食えるものと言えば、木いちごや草の根はおろか、猫や鼠やトカゲからひきがえるまで取って食っているありさまだ。
アンリ だってお前、そりゃ、そうなって来たんだから仕方がねえよ。ストライキと言やあ、まあ戦さみてえなもんだ。つまりが戦さなんだから、ことと次第によっちゃ、ワラジ虫だって金くそだって食わなくっちゃならねえ。それが嫌なら、はなっから戦さあ始めねえことだ。
デニス 嫌だと誰が言ってるんだ! 俺あ最初からストライキをおっぱじめることを言い張った人間だ。たかがこれしきのことにヘコタレはしねえ。俺の言うのはな、こんなありさまになって来ているのにだ、こうして俺たちあ、ベンベンとして坐っていていいのかってことだ。いいかよ? ヴェルネは俺たちの坑夫頭で、まあ大将だ。アンリ、お前と俺とは組合の四人の代表の中の二人だ。言って見りゃ、責任がある。俺たちがここんとこで、どんな手を打つかで、ボリナーヂュ百二、三十人、家族を合せりゃ四百人からの人間が、生きるか死ぬか、どっちかに決るんだ。だろう? その三人が、こうしてお前、三時間も四時間も、こんな、宣教師の小屋なんぞに坐ったきりで待っているんだ。これでいいのかよ? それを俺あ――
ヴェルネ まあまあデニスよ、お前はそう言うが、ここの先生は俺たちのことをしんから心配して掛け合いに行ってくだすってるんだぞ。
アンリ そうよ! それはまちがいねえぞ! 先生のことをおかしなふうに言う奴あ、俺が承
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