E・ルウと言われても不平は言えないよ、ハハ。第一、僕はそんなセンチメンタルなのは、好きでないね。よしよし、仲直りの祝いに、ゆんべ俺の買って来たアブサンを開けよう。(言いながら、下手の自分の寝室に行き、ベッドの下からアブサンの大瓶を出す)
ヴィン (ハンカチで顔を拭き、機嫌よく笑いながら)まったく、俺はフウ・ルウだ。ラシェルがね――いや、ラシェルも、君が取りたいと思ったら取っていいよ。あれは良い娘だ。アルルの太陽の光の中からヒョイと生れて来たような女だ。もともと、僕があの女の所に通うようになったのが、君が来る前、僕はここにたった一人ぼっちで居て、とても孤独で寂しかったからなんだよ。寂しくってやりきれなかったためだ。(ゴーガンはその間にノシノシと歩いて上手の洗面台へ行き、コップを二つ持って来てテーブルの上に置き、瓶を開けてアブサンを注いでコップの一つをヴィンセントに持たせる)ありがとう。(グッと一気に飲む。ゴーガンも飲む)そりゃ俺も唯の人間だ。女が欲しい。女が居なければ俺は凍えてしまう。しかし、それにも、もう馴れた。そう言う意味では俺はもう諦めている。女には俺は縁がない。俺の恋人は俺の絵だ。それに、こうして君と一緒に暮しているんだから俺はもう寂しくはない。だから、ラシェルは君にあげるよ。
ゴー (グイグイとアブサンを飲みながら)ハハ、せっかくだが、いらんねえ、あんな小娘なぞ。そんなことより、問題はそんなふうな君の考え方について廻る、なんと言うか、大げさな禁欲主義的な、福音書風な行き方だなあ。女なんて、君が考えているようなもんじゃないよ。欲しくなりゃ、好きなように取ったらいいんだ。女もすべて取られることを望んでいる。アダムとイヴの道だ。女も動物だ。男が動物であるようにね。それ以上、めんどうなことを考えて自分をしばりつけること自体が既にもう一種の堕落だよ。男と女が動物であった時は、堕落なんぞ起きはしなかった。神を創り出したり、道徳を考え出した時から堕落したんだな。それと、機械だ。機械は今にわれわれ全部を奴隷に引きずりおろしてしまうよ。神と道徳と機械――これがわれわれヨーロッパの文明だ。だから文明は堕落のシノニムだね。今に完全に腐って亡びるよ。特にこのフランスなんて言う所は、もう腐り果ててズルズル溶けかけている。ボードレールはその腐った匂いをかぎ過ぎて、頭が変になった男だし、
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