謔、な眼をしてさ、日の出ないうちに町から駆け出して行くんだもの。そうしちゃ、頭のテッペンを生肉のように真赤にして、描きあげた絵を振りまわして、ブツブツひとりごとを言いながら帰って来るのよ。だから、赤毛の馬鹿、フウ・ルウ!
ゴー 赤毛の馬鹿か。
ラシ あたしん所へ初めてあの人が来た時、ベッドに入ってから、あたい、そう言ってやった。あんたのこと、町の人が何と言ってるか知ってる? って聞いたら、あの人ったら悲しそうな顔して、何と言ったと思って? 知ってるよ、多分俺は赤毛の馬鹿なんだろう。だって俺にはそれをどうしようもないじゃないか。
ゴー フフ、フフフ!
ラシ あたいも笑っちゃった、しかし、そん時から、あたしあの人と仲好しになっちゃった。ホントに好きになったくらいよ。
ゴー すると、お前もあの男も、すっかり御満足になったと言うわけだね? そいつは結構だ。
ラシ え、なにさ? ええ、ええ、そりゃそうだわよ。だから、これからチョイチョイ来てちょうだいと私言ったのよ。そしたらね、来たいには来たいけど、金がないからそんなには来られないと言うの。だから私、金のない時はあんたの耳を私んとこに持って来てちょうだいって言ってやった。あの人、とても大きな飛び出した耳をしてるでしょ、ホ、ホ、まるで驢馬の耳みたいな?
ゴー そう言やあ、そうだ。(自分の描いたヴィンセントの肖像に眼をやって)フフ、そうさ。
ラシ ね、ホホ、そしたら、あの人とても喜んで、じゃそのうちキット持って来ると言うの。ハハ! うれしくなっちゃった、あたい! あんな怖い顔をしてるくせに、あんな善い人ってないわよ。
ゴー そりゃそうだ、たしかに。まあ、せいぜい可愛がってやってくれ。
ラシ だけど、あの人、ここが少しこれでしょう?(こめかみに指を持って行って廻して見せる)じゃなくって?
ゴー む、ちょっとね。だが、変だと言やあ、俺なぞも相当だぞ、わかるかね、だから、こんな所にグズグズして本物の気ちがいにならぬうちに、俺なぞ一日も早く南の天国へ行くよ。
ラシ え、どっかへ行くの、あんた? よしなさいよ。アルルよか良い所、世界中になくってよ。第一あんたがどっかへ行っちまうとフウ・ルウ、とても寂しがってよ。
ゴー そんなこたアないよ。ゴッホのためにも俺あ早くここを立ち去った方がいいんだ。俺が居るとあの男は気が立っていけない。
ラシ そん
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