ト、君、どれくらいになる?
ラシ この冬でそろそろ一年になるわ。
ゴー どうだ、田舎に居るのと、今の商売と、どっちが良い?
ラシ そりゃ、今の方が良いわ。田舎に居ると、おっ母さんには始終ガミガミ言われるし、綺麗な着物一つ着られるじゃなし、第一食物があんた、肉なんぞ一週間にせいぜい一度、チーズもない時があるのよ。ここだと、肉は毎日、お客さんが葡萄酒は飲ましてくれる――
ゴー 飲ましてくれる代りにゃ、それぞれチャンとお相手をつかまつらなきゃなるまい?
ラシ それだって、暮しを立てる仕事だと思やあ、それほどつらくもないわよ。だって、どこに居たって、どっちみち私たちみたいな身分では、自分の身体を使って食べて行かなきゃならないもの。田舎では私もおっ母さんも大百姓の家へ日雇いに出て働いていたのよ。同じことじゃない?
ゴー ふん。
ラシ そりゃ、今のお店、時には、つらくないことはないわ。でも仕方がないでしょう? だから私、なんにも考えないことにしているの。馬鹿だと思ってんの、人間なんて。自分もお客さんも。だから、いっそ面白いわ。ただ、兵隊のお客さんだけは嫌だわね、乱暴で。
ゴー また、よく来るなあ、スワーヴ兵の奴ら。中尉のミリエなんぞ近ごろ来るかね?
ラシ よんべも来たわよ。しかし、あの人は、ローザのお客よ。あたいは、よんべは、お茶引いちゃった。
ゴー ははん、そこで今日はお前、ヴィンセントを呼び出しに御出張と来たな?
ラシ そういう訳ではないのよ。おかみさんに頼まれて、駅んとこまで買物があったんで、どうなすってるかと思ってチョット寄って見たんだわ。
ゴー しかし呼び出すにしたって、エサがこんな二つや三つの三角パンくらいじゃ、ごめんだぞ。ゴッホが行くと言ったって、俺がやらない。
ラシ エサなんて、そんなつもりじゃなくってよ。あんた方、絵ばかり描いていて、一日中なんにも食べないことがよくあるんでしょ? 可哀そうだと思って、私のおこづかいで買って来てあげたのよ。……だけど、フウ・ルウは、どこへ行ったの、ずいぶん遅いわね?
ゴー そら見ろ、ヴィンセントを待ってるくせに。ハハ、なに、もうすぐ帰って来るよ。だが、どうしてお前たちは、あの男のことをフウ・ルウなんて言うんだい?
ラシ 町の人がみんなそう言ってるのよ。だって、そうでしょ、あの人と来たら夏の間じゅう、七つ道具をかついで、熱病やみの
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