おろす)……フフ。くそ!(ニヤニヤしたり、怒ったり、つかれたように描き進む)

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――はじめ遠くから、次第に近く、わき起って来る「パストラール」――(ビゼー「アルルの女」第二組曲1パストラール)が高く鳴り響くうちに――
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     4 アルルで

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――この場は、最後のくだりをのぞけば全部輝かしい風景だけ。ヴィンセントの声だけが、六つの風景が移り変って行くのを縫って語る。(このヴィンセントの声は、観客の背後、劇場の入口の発声機から流れ出て来なければならない。即ち、われわれは、その風景をヴィンセントが描いたところの、そしてそれは今日残っているヴィンセントのアルルでの作品をそっくり引伸して拡大した風景を、ヴィンセントとともに眺めながら、ヴィンセントの語るのを聞いていることになる。――スライド使用)
――遠ざかり行く「パストラール」のうちに。
[#ここで字下げ終わり]

   「アルルの平野」
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この上もなく明るい空の下に拡がっている田畑の絨毯模様と、気の遠くなるように快い地平の曲線。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して2字下げ]
ヴィンセントの声 (落ちついて快活な)愛するテオよ、俺はやっとアルルに来た。暖かい、明るいアルルに俺は居る。太陽の光と、物の色と、土の匂いの中に立っている。そうだ、あのヴォルテールがコーヒーを飲んでいる間に喉が乾いてしまったと言ったという、実に輝かしい太陽の光だ。君は到る所で思わず知らずゾラとヴォルテールを感じるだろう。南は実にはつらつと生きている! この土地では農場や村の居酒屋も北フランスほどに物うげでなく、悲劇的でもない。暖かさが貧乏の辛い味と憂うつさを和らげ割引いてくれる。おお、これらの百姓家と、その麗わしく深紅の大輪のプロヴァンスの薔薇よ。また葡萄と無花果よ。すべては詩だ! そして永遠に明るい日光もまた――しかもその日光の明るさにもかかわらず、樹々の茂みは常に深々とした緑!
テオよ、俺は堅いパンと牛乳と鶏卵で暮している。暖かさが俺の体力を取りもどしてくれた。俺は他の人たちと同じように丈夫になった。土方やペール・タンギイや、老ミレエや百姓のようになったよ! あの貧乏で、身体を悪くしていると言うゴーガンが、
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