もりです。あなたがたもたぶんそうしてくださることと思います。あなたがたと私どもがその点で心と力をあわせて努力すれば、それはかなり効果があるはずです。
 しかしそのこととは別に、現在の世界の諸国家間の緊張した関係は、私どもをして理想主義的な平和運動の境にとどまらせておいてくれない。われわれは現実を見ざるをえないし、必要とあらば現実にふみこんでいかざるをえない。諸国家の国民のだれもが戦争を望んでいないばかりでなく、その大多数が戦争を心から嫌悪しているにもかかわらず、現在の現実では、戦争は起きてしまうかもしれないのです。
 この矛盾のこっけいさは、今となってはグロテスクになってしまった。しかしどんなにグロテスクであっても、われわれはこれを認めないわけにはいかぬし、それに対処しなければならないのです。
 あなたが[#「あなたが」はママ]アメリカ人が好戦的な人たちだとは私は思わない。ソビエットの人びとが好戦的であるとは思わないのと同様に。にもかかわらず、あなたがたは今後戦争をするかもしれない。このようなことを言ってみるだけのことさえも恐ろしく悲しいことだが、言わないでは話がハッキリしない。そして、もしそんなことになれば、あなたがたは原爆、水爆およびその他の猛烈な威力をもった兵器を使用する可能性がある。
 そのときに、あなたがたは、どのような手つづきでその使用を決定するのだろう? それを私どもは知っておきたいし、知っておく権利があるように思うのです。そしてじつは、あなたがた自身もそれをハッキリ知っておく必要があると私は思います。そして、その参考として、まえに引用した新聞の文章で、私は広島と長崎の原爆が使用されることに決定した手つづきと使用の手順がいかなるものであったかを質問したのです。
 それはたぶん私が右の文に書いたようなてつづきによったものと思います。しかし、もう少し具体的に正確に私たちは知りたい、あなたがたアメリカ人は知っていられると思う。それを知らせてほしいのです。
 たとえば、それを決定したときの統合参謀本部なり、そういった組織の構成員の職制や人名や責任の分担など、それからそこでの決定とトルーマン大統領のサインのあいだにどのような規則や慣例があるかについて、またそれが軍の専門部に発令し執行されるにいたる全段階にわたってのできるかぎりのくわしい具体的な知識を私はえたい。それからまた、原爆使用が考慮・計画・決定・施行される全過程のなかのどこかで、一般のアメリカ市民のそのことに関する意見がはいりこんでくる機会が考慮されているかどうか? 考慮されていなくても、自然にはいりこんでくることが可能であるかどうか? または事実はいりこんできたのかどうか?
 それらの事実をありのままに知らせてくださったうえで、あなた自身は、そのような事実――つまりそのような手つづきで原爆が使用されたことについて賛成なのか不賛成なのか、そしてその賛否いずれであっても、どのような意味で賛成または不賛成なのかをつけたして聞かせてください。さらに、今後もし原子兵器が使用されることがあるばあいには、その手つづきがこれこれのものでなければならぬとの意見まで聞かせてくだされば、私はうれしいと思います。
 あなたがたの率直さと誠実さは、かならずこれに答えてくださることを私は信じます。あなたがたのあいだには自由がある、民主主義がある。クリスト教がある。人道的連帯性がある。日本および日本人に対する善意がある。そして私の質問に答えてくださることを妨げるものは何もありません。
 もし万一、答えてくださらなければ、やむを得ず私は、あなたがたの自由や民主主義やクリスト教や連帯性や日本にたいする善意などを、私どもが理解しているものとは違う、何か疑わしいものと思いはじめざるをえないでありましょう。
 なお、このことに関して、もう一つ質問したいことがあります。それは、原爆や水爆その他のあまりにも巨大な威力を持った兵器の使用に関して採用されている民主主義的な権限委託の方式が誤りではないかということです。少なくとも、それはすでにまにあわなくなった方式であり、修正または改変を必要とするのではないかという問題です。
 民主主義体系の国家では、国民全部が法律によって公吏をえらびだし、それに公けのことを執行する権利を委託する。公吏は国民の「公僕」として委託された権限内において国政をとる。戦時においては軍事がもっと大きな政治の部分になり、軍部および軍人が、当然もっと大きな発言権と執行権を持つが、それにしても、国民全体からえらびだされた最高の公吏の統率のもとにあるのだから、間接的にではあるが、国民から委託された権限内で戦争を遂行しているということになろう。
 ただ戦争は相手のある仕事で、その相手はあらゆる手段を
前へ 次へ
全5ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング