めえ一人が真理みてえなツラしてエバるこたあねえずら。
新一 真理みてえなツラ、いつした? そうじやねえつて、ただ俺あ――
次郎 わからねえなあ新ちやんも!
新一 わからねえのは次郎の方じやねえか!
次郎 んだから、この簡単明瞭な事実をだなあ、へえ――
新一 だから、事実そうじや無えじやねえか!
次郎 そんな事あ無えよつ! そうなんだ! そうだから、そうだよ!
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(――いきなりほとんど喧嘩のような怒鳴り声ではじまつた二人の青年の口論は、もう相当の時間つづいて来たものである。山奥の小みちを歩きながらの口論、二人のズボンが両側の草をこすつたり、足が道を埋めた枯枝を踏みしだく音に、時どき鋭どい小鳥の鳴声が、遠近に冴えて響く)
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新一 そうじやねえつたら! 次郎はあんまり狭く、自分の境遇にとじこめられてばつかり考えるから、そうなるんだ! もつと、へえ、広く今の世の中のこと見てみたらどうなんだ?
次郎 広く見てりやこそ、そうだつて俺あ言つてんだ! 人間だれだつて、ふだん考えてる時あ他人と喧嘩してえと思つ
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