の事を話しますにも、主として生徒たちの修養という事を主眼にしまして――それも、しかし、大東亜戦争になりましてからは、ほとんど教室ではキリスト教に関する事は一言も話さないように――
伴 だが、自分のうち……つまり、教会の方では、信者になりたいという人間に洗礼――といったね、洗礼をしてやったりはしているんだろう?
人見 はい、それは――いえ、しかし、そんな人も近頃、ほとんど有りませんものですから。
伴 ふむ。……(それまでいじくっていた小形の黒い本の、はじめから折ってあった所を開いて)ここだ。(読む)見よ、ある人、みもとにきたりて、言う。「師よ、われ、とこしえの命を得るためには、いかなる善き事をなすべきか」イエス言いたもう……えゝと、うん。読んで見たまい。(本を人見に渡す)
人見 え? はい……(その聖書と伴の顔を見くらべてオドオドする)読むのでございますか?
伴 うむ。
人見 (つかえつかえ読む)「師よ、われ、とこしえの命を得るためには、いかなる善きことをなすべきか」イエス言いたもう「善きことにつきて、なんぞ我れに問うか。善き者はただ一人のみ。なんじ、もし命に入らんと思わば、いましめを守
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