、やめてください。僕は、ホントに、お願いします。この――(両手を強くにぎりしめて、いっしょうけんめいにいっているうちに、すこしシドロモドロになって来る)
人見 (自分でも排除しきれない友吉に対する根深い反撥を、つとめて押しかくしながら)君のいう事は、一つの考えとしては正しい。戦争中と同じだ。あの頃とすこしも変って来ていない。……チットも成長していないんだ。ひとつおぼえ……つまり、それは、考えとして正しいかなんか知らんが……実際の、実行上の智恵としては、まるで力がないのじゃないだろうか?
友吉 ええ……僕はボンヤリですから、この――
人見 つまり、そんな事をいっても、誰がそれを実行できるだろう?
友吉 ……あの、僕は、実行できるんですけど――
人見 そりゃ、そりゃまあ、君は実行できる人だ。現に出来たんだから、しかし君のような人は、千人中、万人中、いや千万人の中に一人いるかいないか――とにかく、たいがいの人には実行できない。
友吉 いえ、あの――ほかの人も、僕のようにすればいいんです。(自分がいかに権威ある恐ろしい言葉をしゃべっているかに全く気附かず、ただ子供らしく、額に汗を浮べながら)……僕みたいな、なんにも知らない、こんなバカにだって出来るんですから、ほかの人に、やれないワケは――
人見 君が実行したために、君のお父さんは死んだ。明君は苦しんで、ヤケになって、戦死した。そいから私なども、ずいぶん――いや、私の事など、なんでもないが――それから、ヤミや不正は絶対にしないという君の行き方のために、君のお母さんも――肺炎だというけど、ホントは栄養不良が原因しているんじゃないかね? ――そんなふうな、それは或る意味で――自分の信念を生かすという事はけっこうだけど、その事だけのために、他の人をみんなギセイにするという意味で、それにエゴイズムともいえない事はないんだから――
友吉 ええ、それは、あの――(人見の言葉で打ちくだかれ、にぎりしめた両手をブルブルとふるわせ、やがて、イスからすべり落ちて、ユカに膝を突く)
木山 ……(しんけんに)片倉さん! しかしですねえ、自分がですねえ――つまり、自分の国が、いくらそんな気もちになってもですねえ、向うの相手が、相手の国が、あくまでガンコに自分だけの意見を押し通そうとする場合は、それでは、どうしたらよいのですか?
友吉 え? ……(膝を突いたまま、混乱して、人見を見たり木山を見たりしながら)あの、それは、おたがいに、許して――あの、許し合ってです! おたがいに人間どうしなんですから、許し合ってこの――(人見に、あわれみを乞うように目を上げて)先生、治子さんを許してください。治子さんは、ホントに、良い人なんです。治子さんは、今、ひどい生活を――あの、ダラクしようとして――僕もハッキリとは知りませんけれど、あの――許して此処へ引き取ってくださるように――
人見 そりゃ君、君からいわれなくっても、妹なんだから。しかし、あれは――(困って、不快そうにわきを向く)
友吉 お願いです!(救いを求めるように、木山を見あげて)そうなんです! 手を引いてください! その、武器を取らぬ戦争――それが、今のままでズーッと行くと、きっと武器を取ることになります! 新聞にも、米ソ戦争などという文句が出ています! やめて下さい! 争うのを、やめて下さい! あなたがたも、ソビエットも、お願いです、今のようなやり方を、どうぞどうぞ、よしてください! アメリカにお願いします! ソビエットにお願いします。両方とも、ケンカをやめて下さい! 両方で、もっと仲良く話し合って下さい! 私どもを恐ろしい所へつれて行くのは、こらえて下さい! そのために、私の命が入用なら、私を殺してください。神さまを、そのために、引きずりおろす事が必要ならば、神さまを引きずりおろして下さい! お願いです! 武器を取ろうと取るまいと、戦争は、戦争だけは、もう、どうかやめて下さい! この通りです、どうかどうか――!(昂奮の極、オイオイと声をあげて泣き出している)あの、先生も、そいから、あの、両方とも……(まだ何かいいつづけているが、泣き声になって聞きとれない。その、いじめられた子供のように、みじめなコッケイな姿)
小笠原 プッ、ホホホ、まあ! ホホ!(とうとう、ふきだしてしまう。竜子も釣られて笑い出すが、しかし眼は、いぶかしそうな、びっくりした色を浮べて友吉を見ながら。人見は時々ニヤニヤしたり、額にシワをよせたり、複雑な顔で、クリスマス・ツリイの下の方にゆわきつけた銀色の星に眼をやっている。木山だけが、まじめな顔をして、友吉を見つめている)
        11[#「11」は縦中横]
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 つんぼになる程のもうれつな地ひびきを立てて、頭上を通 
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