手が軍だからなあ。
今井 いえ、この、今日のこれは、わたしらがなにしたのではありません。このおやじさんが(とモゴモゴして義一を指して)――この――(宗定に)これは、父親なんです。今日は、自分からやって参りまして、なんです。こんなやつが自分の家から生まれたのは相すまんから、父親の自分の手で叩き直してやる……そういいまして、一時間近く、力一杯に、この。……よせといっても、ききませんでねえ。――そいで、自分もこうして伸びちまったんです。いや、昔かたぎの、正直いちずといいますか――
宗定 ふーむ。
黒川 そうかね?そいつは――感心だなあ、しかし。……今井君、水でも汲んで来て。
今井 はあ。……(出て行く)
宗定 人見君――だったね?
人見 はい。(ていねいに、おじぎをする)
宗定 ……(ニヤニヤしながら、壁のそばに並んでいるイスの一つを自分の手で持って来て、室のまんなかに置き、それを腰におろしながら)どうだい、そいで? この前もサンザンいったように、もう、こいだけ、つまり半年以上もこうして来たんだから、いまさら、めんどうな事をいい合ってみても、はじまらん。君の方としても、もう答えようもないだろうと思うんだ。どうだね?
人見 はあ。……
宗定 こう度々ブーブーとやられてる最中にだな、ムダな事をいつまでも繰り返していても、しかたがない。本庁の方も、ますます忙がしくなってるしね、今までのように僕などが出向いて来ることもできにくくなるんだ、今後は。だからねえ、もういいかげんにして、取りあつかいを軍の方へ返すなり、軍の方でウンといわなければ、しかたがないから、こっちで書類を検事局の方へまわそうと思うんだ。聞いて見たら、向うでも迷惑がっているようだったが、さればといって、どうにもしかたがないからねえ。どうだい?
人見 ……すると、なんでございましょうか、この正式に、この――?
宗定 そいで刑務所だね。しかし、そうなると、当人もかわいそうだしね、それに、君も、たぶん、そのままじゃすまんことになるだろうし――
人見 え、しますと――?
宗定 うん、まあ、正式のことになると、君がすすめて、この男をこんなふうにしたという事になるだろうからね。国法では、まあ、宗教というものを、そういうものとしては認めとらんのだなあ。教唆という事になる。
人見 わ、私は、しかし、この、そんな……いえ、たしかに、私
前へ
次へ
全90ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング