ねえ。……だからまあ、いよいよとなれば軍に引渡してアッサリ処置してもらうんだが、今いった通り、向うも忙しいのと、責任問題で、相手にしたくないんだから、これ、どうなるもんだか――(話しながら、友吉の縄をほどく。友吉は、縄がほどけるとクタクタと、ボロをたたんだように肋木の足もとに坐る。顔はガックリ前に垂れている)……どうしたい?……だからねえ、どうだい、君からなんとかすすめてだなあ、早くこの――だって、この大将をヤソにしたのは、君なんだろう?そんなら、君からいやあ、なんとかなりそうなもんじゃないか?
人見 はあ。それは、先日から、この、口をすっぱくして、なにしているんでございますが、どうしても……
今井 でないとだな、君だって、これで、今に、妙なことにならんとも限らないよ。戦争が、こんなふうに段々と負けが込んで来るとだなあ……うむ、海軍はあらかた沈んじゃった、飛行機の増産も思うように行かん、第一ガソリンがなくなって来たわ、せいぜいあと半年ぐらいで、いよいよ本土作戦――竹槍で、一億総肉弾か。ヘヘ、……といった有様、軍部もドタンバだもん、神経質になっとるからな。ヘタをすると君なんかも、ロクに調べもしないで、バッサリということにならんとも限らんぜ。気をつけるんだなあ。
人見 ……はい。その、私は――(すくみあがってキョトキョトする)
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(そこへ黒川※[#始め二重括弧、1−2−54]国民服にゲートル※[#終わり二重括弧、1−2−55]と、宗定※[#始め二重括弧、1−2−54]セビロ※[#終わり二重括弧、1−2−55]がズカズカ入って来る。黒川は正面の額に向ってキチンと敬礼をした後、友吉の姿と、まだ伸びている義一と、人見を見る。宗定は、一同をユックリ見まわしながら、巻煙草を取り出す)
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黒川 ……(今井に)そいで?
今井 (宗定に、ちょっとあらたまって敬礼をしてから)はあ?
黒川 ダメかね、やっぱり?
今井 なんしろ――
宗定 いかんなあ、しかし。(友吉と義一の姿をアゴで指して)あんまり手あらに扱っちゃあ。
黒川 だが実際、こうなると全く、どうにも処置のしようがないですからねえ。弱りました、われわれも。
宗定 そりゃ、僕らにしたって同じさ。本庁でも、君みんな逃げを打ってるんだ。しかし、それだけに参っちまったりすると、後がうるさいよ。相
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