で、これは要りませんから、どうぞ取つて下さい」
 と貰つた金を返す。
 「しかし汽車賃が要るだから」とその中の二三円をお若にやるスミ。頂いて礼を述べる信太郎とお若。
 スミ (門内を振返つて)「んでも、あの小父さんもなるべく軽くて済めばよい」
 三人門内を振返つてゐる。

 やがて三人、互ひに旅の無事を祈り合ひ、なつかしさうに涙ぐみつゝ振返りつゝ別れる。(スミは省線の駅の方へ。信太郎とお若は軽便の始点の方へ)――
 ガツカリ見送つてゐる旅商人。

○スタスタ急ぐスミ。
 「おすみさん――と言ひましたね」振返ると旅商人だ。
 「これからどちらへ?」
 返事をせず歩き出すスミ。しつこく追つて来て色々話しかける旅商人。果ては荷物に手を掛ける。
 振返つて、いきなりスパツと相手の頬に平手打ちを喰はせるスミ。向直つてトツトと歩いて行く。――
 毒気を抜かれてポカンと見送る旅商人。

○上野駅のプラツトホーム。
 心配そうに焦々して待つてゐる楠一六。彼の手に電報。
 その発信局の名がE市の駅。それが彼には訳がわからぬ。

○列車到着。
 一六、眼を皿にして捜すがスミの姿無し。箱を次々にあわてて捜し
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