とはせぬ。「信太郎さ……」
中年男「……ついて来ても仕方がない。どうするんだね?」
女「……へい? 心配ですから……」
モヂモヂと車窓から離れる。
馭者「乗らねえのかね?」
女「へい、……銭が少し足りねえから」
これらを見てゐる彦之丞とスミ。特にスミは女をマヂマヂと見詰めてゐる。
青年「お若、村へ戻つて待つててくれ……」
○馬車は又走り出す。
若い女も再び車の後を追ふ。車の立てる白いホコリをかぶりながらトツトツトツと走る。一度何かに蹴つまづいて倒れさうにするが再び走つて追つて来る。
それに気をとられて見てゐるスミの手からのがれた子豚が腰掛けの上を歩いて行き、そこに既に酔つて延びてウツラウツラとしてゐる区長の鼻づらを舐めてゐる。
青年の腰の辺にチラリと見えた捕繩を眼にして「ふーむ」と言つて二人を見、トツトと走つて来る若い女を見くらべてゐる彦之丞。
○C町の入口が見えはじめる。
馬車は進む。
もうかなり後ろから、懸命に追ひ付かうと走つて来るお若。豚に舐められた区長が、大きなクシヤミをして起き上る。
○馬車が停る。
馭者の声「区長さん! 補習学校に行くん
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