人でかね……あちらに親戚でも有るのかね?」
 スミ「へえ。……いいえ……」益々ドギマギする。

 旅商人「すると、御一緒かね?」と言つてお若を見やる。と、お若は腰掛けに置いた包みの上に突伏してゐる。
 スミ見てゐてから「あんた気分でも悪いのかね?」と肩に手を置く。
 お若ハツと起き直る。しかし顔を差し覗いてゐるのが親切さうなスミであるのを知つて、悲しげに微笑む。「……」
「気分でも良く無えの?」
「いいえ、あんでも無い。ありがたう」
 二人の若い娘の間にかもし出されるシミジミとした同情と感謝の気分。

 旅商人「あすこに連れられて行くのは、もしかすると、C村の放火をしたと言ふ犯人では無えかな?」

 その言葉で、先づお若が、次にスミが旅商人を見詰める。
 しばらくして、寝てゐた土方がノツソリ起きて、旅商人を見る。冷酷な獣の様な眼である。

 旅商人「いえさ、あれがよ」

 スミ、駅長室を見る。土方もその方を見る。――ヂツと見詰めてゐる。
 お若は旅商人を見てゐる――「いいえ、違ひます。信太郎さんは、そんな大それた事をする人ではありません!」

 その声に、駅長室を見詰めてゐた土方がお若を見る。
 穴の開くほど見詰めてゐる。
 待合室の大時計が秒を刻む音。

 待合室の表に人力車が二台ばかり着いて人が降りるらしい物音や人声。やがて裕福らしい紳士が、第二号夫人と言つた様子の女を連れて待合に入つて来る。「直ぐに出る車が有るかな? えゝと……」待合室の中が少しゴタゴタして賑かになる。

○スミ、父親の事を思ひ出し、外に出て行きかけるが席に荷物を置いてあることを思ひ出して引返し、どうしようかと困つた顔。
 それを見てお若「あの、御用ならば、わしが待つて居てあげますから……」
 スミ「ぢやチヨツクラ頼みます」
 スミ表へ小走りに出て行く。――出入口の角を急いで曲らうとしたトタンに、それまで其処の壁にピツタリ身を附けて待合室の内部を窺つてでもゐたらしい人に、ぶつつかる。
 スミ「あゝ、ごめんなせ!」
 見ると、短いケープを着た、変な、あまり清潔で無い洋装の極く小柄な少女(ユリ)である。少女はスミからぶつゝかられて、怒つてとがめでもすることか、いゝえ……と小さい声で言つて、オドオドした眼でニツと笑つて、段々尻ごみをして退り、待合の外の壁に添つて柵の方へ。
 スミ「チツとも知らなかつ
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