持なんてもんは、どこの母親でも、同じだ。……いくつになっても……もうへえ、死んじまってからだっても……子供が学校に初めてあがった頃、学校へ行く子を門口から見ていてやるからと言って、小さくなるまで見送った、その姿あ、忘れねえもんだ。……ハハ(と涙をこぼしている自分を軽く笑い消して)いただいときやんしょう。そんなわけの物なら、尚の事、大事にして。(掌の上のケースを額につけて、いただき、叮嚀に懐中へ)
青年 (頭を下げて)いやあ、そんなに大事にして下さらなくても、いいんですよ、ハハハハ……その代り――と言っちゃ、なんですが、お願いがあります。
百姓 あんだえ?
青年 この麦を少しばかり、下さい。
百姓 麦かえ? お安い御用だ、いくらでも持って行きなせ。さあさ、(こごんで両掌で麦粒をすくって出す)
青年 ……(ハンカチを出して、麦を受ける)
百姓 もっと――
青年 いえ、これでたくさんです。(叮嚀にハンカチをむすぶ)
百姓 それんばっち、どうしやす? 第一、このままで、食えはしねえが。
青年 いいんです。ハハハ、……船で今度ガダルカナル辺へ行ったら、こいつを出して見ようと思います。(胸のポケッ
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