わなくても……みんな、働いてるづら。……へえ、どっこいしょと!
青年 ……(相手の言葉が明るく淡々としているだけに余計に迫って来るものがあり、叩きつづけられなくなり、叩くのをやめて、棒を立て、調子を取って麦を叩く百姓の姿をシミジミと見守る)
百姓 ……そうだらず?……ハハ……どっこいしょと!(叩き続ける、トン、トン、トンと響くおだやかな音が、高原一杯に拡がって行く)
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(その音に混って、遠くの方から呼声が聞えて来る……はじめそれは棒の音に妨げられて二人の耳に入らない。その内に青年が先ずそれを聞きつける)
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声 おーい、ばあやあーん! ばあやあーん! ばあやんよーうい! (その少年の声は、下手から此方へ向って走って来ながら呼んでいるもので、忽ちの中に間近になり、小径の方から兎の様に飛び出して来た、十五六才の元気な少年。かすりの着物に戦闘帽に手造りの草履)
少年 ばあやん! 来たぞう!
百姓 ほう、慎市、来たか。(叩くのをやめてニコニコして見迎える)
少年 来た、来た、来た!……(言いながら、走って来た勢いで、いきなり、ムシロの上の、麦のこぼれ
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