笑い出し)ハハハなにね、此処のばさまは、物見に出歩くじゃ無し、三百六十五日、野良着で働くだけで、食うものにも着るものにも、まるっきり慾はなしね。野良さえ稼いでれば、金え溜めても仕方がねえと言った仁でさ。ただ、ボロッ着物や袋なぞのツクロイ仕事をするだけが、じょうぶ好きでね、雨や雪で、野良へ出られねえ日は、ヒジロんとこで、ボロ縫う、そんだけが道楽だ。だもんで、縫針や糸やなんぞにゃ、まるきし、目がねえ。まるで、へえ、女の子みてえに、針や糸ほしがる。そんでね、村の者あ、ばさまの所に来る時あ、針や糸持って来ちゃ、帰る時にこうして、置いて行きやす。(言いながら、自分の持って来た糸と若い女の針の包みとを、千歯のそばに置いてある箕の尻の出っぱりの上に置く)
女 (微笑)……いつか、おばさん、なにか、是非して見たい事はねえかって、聞いたらば、そう言ったですよ……スフやなんかで無え、丈夫な、そして白だの黒だの赤だの青だの、いろんな色の糸どっさりそろえて、思い入れ、ボロ縫って見たら、良え心持だらず――
中年 ハッハハハ。
青年 (これも笑いながら)……すると、先刻、この(と胸のポケットにチョット触って)裁縫
前へ 次へ
全78ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
三好 十郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング