先刻からの会話から醸された[#「醸された」は底本では「酵された」]気分を打切るように笑う)ハハ。
百姓 ……(しかし、これはその笑いに乗って行こうとせず、単純な自然な動作で、黙ってトコトコと寄って来て、青年と入れ代って麦こきにかかる)
青年 ……そうだ、飯を食っちまっとくか。……(リュックサックの方へ行き、それを開けにかかる)
百姓 ……(身体を動かしながら)おまんま食べるんだら、湯でもわかしてやろうかな?
青年 いや、水でたくさんです……(言いつつ握り飯の包みを取り出しかけて、フとリュックサックの一個所に目を附け)いけない、……何かに引っかけた。ええと……そうだこっちが先だ。(草の上に坐り、握り飯の包みを傍に置き、リュックのポケットから、小さいケースを取り出し、それを開いて、糸と針を取り出して、馴れた手付きで針に糸を通して、サッサとリュックのほころびをつくろいにかかる……。
百姓 ……(急に青年が黙りこんでしまったので、そっちを見る)水なら、そのヤカンに――(飯を食べていると思っていた青年が針を使っているので、しばらく眼をこらして見ていたが)どうしやした?
青年 やあ……(セッセと縫
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