おりき
三好十郎
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【テキスト中に現れる記号について】
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信濃なるすがの荒野にほととぎす
鳴く声きけば時過ぎにけり
――万葉東歌――
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八ヶ嶽の、雄大な裾野の一角。
草場と、それから此のあたりでカシバミと呼んでいる灌木の叢に取り巻かれた麦畑。黄色によく実った麦の間には既に大豆が一尺近く育っている。
麦畑の奥は向うさがりに広がっていて、此方から見えるのは、その極く一部分だけ。周囲の草場の一部は草が刈り込まれ、そこが麦こきの仕事場になっていて、刈り集められた麦の束が積んであり、その傍には荒むしろが三四枚ひろげられ、その上に牛くさの千歯が据えてある。
小径は仕事場のむしろの傍を通り草場を抜けて左右に伸びている。下手に伸びた小径は、麦畑のふちを通って、八ヶ嶽の峯々が合掌するように空に連っている方へ。上手に伸びた小径はカシバミの叢の中を廻って正面奥に下って消えている。
ただ見れば平地であるが、実は海抜二千メートル以上の高地で
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