此方ですね、道は?
百姓 それだ、それだ。……それズーッと[#「ズーッと」は底本では「ズーツと」]行って……よしよし、俺が此処に立って見ててやらず。ああ、それズンズン行って、運送道へ出たら、林道を右へ――曲って、(言っている間に青年の姿は見えなくなる。……間……遠くから青年が何か手真似をするらしい。それに答えて、大きくうなずきながら[#「うなずきながら」は底本では「うなづきながら」]、手を振り、叫ぶ)ああ、そっちだそっちだ! それを、まっつぐに行くだあ! 気を附けてな! ……(立ちつくしている。既に青年の姿は小さくなって、消えて見えなくなったらしい)
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(……間……やがて、彼女は、ムシロの上にかがみ込み、麦をすくい込んであった箕を肩の所まで持ち上げ、吹いて来る微風を斜めに受けるようにして、箕を静かに傾けて、麦を少しずつ[#「少しずつ」は底本では「少しづつ」]こぼして行く。風で麦をふるい分けるのである。……ふるいながら、青年の去った方を見返ったりしながらも、既に、労働の平常の姿になっている)
(……奥の谷の方から、気の遠くなるように流れて来る山鳩の鳴声)
[#ここで字下げ終わり]
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底本:「三好十郎の仕事 第二巻」學藝書林
1968(昭和43)年8月10日第1刷発行
初出:「日本演劇」
1944(昭和19)年3月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
※「ずら」と「づら」は底本通りにしました。
入力:伊藤時也
校正:及川 雅・伊藤時也
2009年6月7日作成
青空文庫作成ファイル:
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