、なによ、組合がそう言って、みんな一時間ずつ[#「一時間ずつ」は底本では「一時間づつ」]早く起きるだ。
中年 ひゃあ……するちうと、ばさまなんど、今でも三時に起きてるの、どうなる?
百姓 二時に起きるべし。
中年 ひゃあ……どうも、へえ、かなわんなあ! ハハハハハ……そいから、ばさま、麦の供出の方は、どんな風にしやすかい?
百姓 麦かい? 麦あ、此処のを出すよ。
中年 何俵だ?
百姓 十二三俵も有るづら。
中年 へえ、すると、此処の、みんな出すのか?
百姓 みんな出しちゃ、そっちで困るかえ?
中年 こっちは困るだんじゃ無え。ばさまの内で困るべえ?
百姓 あに、オサキの畑で五六俵取れるから、此処のは内じゃ当てにして無え。
中年 へっ! なんせ、俺達あ、もうかなわねえよう! 好きなように勝手にさっし! へえ、とんだばさまだあ!(良いキゲンでわめき散らしながら、小走りに消える)
百姓 ハハハ……(手を動かすのはやめない)んでも、へえ、感心なもんだあ、……ああして忙しい中を駆けずり廻って村の世話あ焼いてる。……あねえな仁が居るから、この辺も何とか、かんとか、へえ、やって行けらあ。もとは、あれでも農学校途中まであがった仁でやすがね(と青年に)へたに学校なんぞにあがると、こんで、地百姓なんぞになりたがらねえもんだが、あの仁だけは、へえ、いつの間にか良え百姓になりやした。……なかなか出来るこんで無え。ふむ……(首を振り振り、麦こき)へえ、まだ湯はわかねえかや?
女 うん、もうチョット……(しきりとヤカンの下に小枝をくべる)
青年 やあ、水でもいいのに。
百姓 うんにゃ、此の辺の水は山水だからなし、馴れねえ衆が飲むと、腹あ下す。……(片手で眼の上にひさしをして空を迎ぎ)ええと、もう一刈り刈って、それを落して、叩いてしまえば、先ず[#「先ず」は底本では「先づ」]今日はおしめえかな(又、ニッコリとこきはじめながら)シゲ、お前は、なんだ?
女 ……おばさんにチョックラ逢いたくなって――
百姓 なんの話だ? 言え。
女 うん……(青年をはばかって言いよどんでいる)……
百姓 戦地から手紙あ、来るだか? 元気でやっているかえ、源太郎?
女 へえ、こないだ手紙来やした。……元気だって。……
百姓 そうか。
女 ……甲州の慎太郎兄さんとこ、慎市ちゃん、試験、どうしやした?
百姓 さあなあ。なんせ
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