めえだあ! ハッハハ……(若い女も、それから笑われている百姓自身も笑っている。青年も意味はわからないながらニコニコして飯を噛む)
百姓 国三さの阿呆。(口の中でブツブツ言う)
中年 ……(煙草に火をつけてプカプカ煙を吐いていたが)へえ、阿呆に違え無え。阿呆でなきゃ、こうして二日も三日も、バッタの様に頭を下げ詰め、足あ、すりこぎにして、喜十がとこと海尻との間あ、お百度踏んでいやしねえづら。ハハ(まだ笑いながらであるが、此処にこうしてやって来た話の、いきなり中心点から語り出したらしい)……部落常会の世話役も、俺あ、もうへえ、大概いやになりやした。大体、俺なんぞ、世話役なんぞやる器量で無え。百姓やりながら、おこさまの指導員やってる位が精一杯だ。もっとも、おこさまも近頃みてえじゃ、指導員もあがったりでやすがね。ハハハ。
百姓 ……(ポカンとして聞いていたが、やがて中年男の話の後半を全然無視して)喜十がとこじゃ、どうでも、それじゃ、甲府へ出るちうの諦めねえだか?(中年男、ひげ面でガクリとうなずく)……こねえだの寄合いで、あんだけ皆の衆から言われてもなあ?(中年男ガクリガクリとうなずく)……夏場忙しい時あ、村の家ごとに廻りもちで人手を出してやると言ってもかえ?(中年男うなずく[#「うなずく」は底本では「うなづく」])……うむ、……そんで、海尻の須山さんじゃ――?
中年 須山さんじゃ、はじめから言っている通りでなし。今更こんな山ん中へ入り込んで自分手であんなむずかしい二段歩からの水田を作りつづけて行く人手は無え。喜十がどうしても甲府へ出るんならば、致し方無え、丁度整理する時期も来ているで、銀行に渡してしまう……
百姓 うーむ……
中年 なんしろ、あすこでもかしら息子が兵隊に出て以来、居まわりでやっている二町歩足らずでも精一杯だで……こうなると論でも無きゃ筋でもねえ。現にやれねえだからなし、話したからって法がえしは附かねえ次第だて――
百姓 ……すると、喜十に泣いて貰うほかに仕方が無え――
中年 その喜十がでさ、……なんしろへえ、須山さんや、なんなら年貢なぞ段当り一俵ずつへらしてもええと言うとるんじゃが、こんで、叩き分けの時分に較べりゃ先ず五俵からの儲けじゃが……俺あ、へえ、年貢が高えの安いのを言っとるんじゃ無え、たとえどんなに安くっても、いまどき、俺達みてえな、からっ小作、やって
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