「その人を知らず」について
三好十郎
キリスト教の信条をそのままに素朴に、そして厳格に守るために軍の召集に応じることを拒んだために憲兵隊にあげられた青年の話を私が聞いたのは戦争中の、それも終戦近くだった。聞かせてくれたのは、たしか新聞関係の人だった。
その話から私は強いショックを受けた。それまで、戦争前から戦争中へかけて、自分が戦争というものに就いて考えたり感じたりしたいろいろの事に、一気に焼きゴテを当てられて血が吹きだして来たような気がした。私はその青年に会いたくなった。その由を、その新聞記者に話したが、憲兵隊では外部の人に面会はさせまいと言う。そのうちに東京空襲が激しくなり、私の身辺も忙しくなって、その青年に会うことなど到底不可能な状態になった。そして、やがて終戦。……その間、始終その青年のことが頭へ来た。どんな男だろうと思う。平凡な、普通の青年のようにも思えるし、何か恐ろしく異様な、狂人じみた男のようにも思える。ハッキリと思い描くことは出来ない。空襲最中の一瞬後には自分が粉みじんになるかもしれないと思うセツナの中に、キラッとその青年の目が見えたり、終戦前後の食糧難の中でサツ
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